そもそもの始まり 38
「く……っ。なんてやつじゃ。本当にアッサリやりおるとは」


紅仙は真っ先に邵可の身体を守り、次に櫂兎の身体を守ろうと力を使う。……俺は後回しなんだなあとホロリと涙が零れそうになったのは秘密だ。しかし俺の容体は邵可ほどではないだろうから、後回しで正解だ。身体は異様に重いが、意識はまだ朧げにある


自分の分の力ならなんとかなる。してみせる。紅仙の周りの力の奔流からそれがみてとれた気がした。
だがしかし、"干將"と"莫邪"が、ひどく暴れている


「ぐ……制御……が、でき……」


苦しそうな彼女の様子に、俺は残る力を振り絞り、しかし何もできないので悔しくてどうしようもないが、そっと彼女の掌に手をあわせた。


そして呟く


「きっと、だいじょうぶ」


驚いたような顔をした彼女がみてとれたが、それが最後。限界だった。
闇に引きずりこまれるように、俺は意識を失った。








夢を、みたような気がした。ひどく懐かしくてそのくせひどく悲しい夢だった気がする。もう、忘れてしまった。


その代わりにか先ほどの邵可の『大切なものたち』が次々と思い出され、その色彩豊かさに自分を省みる。


俺には妹、佳那しかいない、か。
我ながら、なんとも素っ気なく、かつ一途であろうかと思った。

でも、なんでだろうな


そろそろ、それも終わりにしてもいいかもしれない。いや、
一番は揺るがない、生きる理由の妹。でも、


鬼畜なくせ優しいとか矛盾いっぱいの殲華、ちっこくてかわいい清苑、狸の瑤旋に、いけめん鴛洵、ムキムキ隼凱に、捻くれてるくせ真っ直ぐな邵可、バカ一直線でいっそ清々しい北斗、一生懸命努力家なとことか可愛い珠翠、それに心のお姉様薔薇姫。

大切な物、ここに来て、増えてしまったよ。そして、きっとこれからも増えるよ。



きっと佳那にそれを言えば、少し寂しそうな顔をした後、その何百倍も嬉しそうに「まぁ、よかったじゃん? それで兄貴がうっとおしいの減ったら尚最高ね!」なんて言ってくれるんだろう。



ふ、と笑って、
目を開けた。

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空中三回転半宙返り土下座
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