室に足音近付くのに気付き、霄太師は烏へ姿を変えた。間もなく扉が開き、家人が顔を出す。
「器をさげさせてもらいに来ました。私ったらお箸二膳も用意しちゃって……
って、あらあら、烏さんはお箸お使いになるのが上手ですのね」
くすくすと笑って、綺麗に食べられ米粒一つない器を家人は盆にのせる。
(じょ、冗談…だよな、別に瑤旋のことがばれてるわけ…じゃ、ない、よな?)
「明日の朝もお箸二膳御用意しますね。もうしばらくしたら食後の果物を持って御悉(みつ)さんがいらっしゃると思いますから」
「御悉(みつ)さん…?」
「あらやだ、私ったら。ええと、もう一人の家人の名です」
「そうですか。あ、ええと、貴女の御名前は?」
彼女は少し目をぱちくりとさせてから綺麗に笑って言った。
「燐果(りんか)と申します」
「燐果さんは別に瑤旋に気づいたわけじゃない…よな?」
「じゃろうの。別段普通のおなごじゃし、人型見られたわけじゃなかろうし。箸ひとつでは気付けんよ」
そう言ってから霄太師は烏らしくかぁと鳴いた。なんだか間抜けに見えた
「うん…なんか冗談のはずなのに事実ついてるから凄いよね。冗談の内容も、何というか、ユーモアとかロマンとか感じちゃう」
「なんじゃそれは」
「んー…、……説明しづらいな。取り敢えず感性のよさ感じちゃうなって感じかな」
「ふむ、よく分からん」
「説明するにも感覚的なもので定義ないから説明し辛いんだよ。楽しいって感情を知らない人に楽しいの意味教えるの、言葉難しいじゃん、そんな感じ。あれは感情ではないけどね」
霄太師は小首を捻っては櫂兎を見つめる。見つめられたところで言い方みつからないので櫂兎は黙る。かしげる角度が更に傾いた。烏でなく梟だったなら180度回転していると思う。
室に気配近付き燐果さんとは別の家人さんが入ってくる。この人が御悉さんだろう。
「失礼します、西瓜をお持ちしました」
「ありがとうございます。わ、美味しそう」
「種と皮はこちらの器に。種とるのにはこちら、よろしければお使い下さい」
そうして手渡されたのは不思議な形をした金属棒。丁度西瓜用スプーンの先だけとって付けた感じだ
「これは凛さんの発案で?」
「はい、試作品だそうです」
それでは、と御悉さんは室を出て行った。
冷えた西瓜は、甘くて美味しかった。
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bkm