そもそもの始まり 30
考え事をしながら走っていたせいか魁斗と少し距離が空いてしまった。背中がみえなくなりそうになって急いでそれを追いかける。




追いついたと思えば魁斗が卓上の水晶を手にしたところだった。とっさに魁斗の腕を掴む

そのとき、双剣が一際大きく鳴いた。
何かに引っ張られる力を感じ、とにかく魁斗にしがみつく。




気づけば、薔薇の繁みの中に2人で立っていた。




綺麗な薔薇が咲き誇っているのに、あたりには生き物の気配がなくしんとしている。


声に出さず、しかしこの状況に、めったに崩れない表情を驚きに染めた魁斗は、あたりを見回し不意に歩き出した。


二胡の音に気づき魁斗に続く。
導きの二胡の音。深く悠久を感じる中に、清廉さをもったような味わい深い音色とでも言おうか。櫂兎は舌を巻く。

ただ鳴らしているのではなく、楽器を自分で声出すように、歌うように奏でているのだ。

俺にはできない芸当だよなーなどと思っていれば魁斗が足を止めた。視線の先には………薔薇姫。時を忘れた様に魁斗は薔薇姫を見つめている。


これは何処からどうみても彼の一目惚れだろう。
しかしまぁそれも仕方ない。彼女の魅力は存在そのものからして、そこにいるだけで溢れんばかりになっていた。


と、急に風が止み、きこえたのは刺すように鋭く凛と美しい声。


「……何者じゃ。出て参れ」


ふらりとその声に応えるように魁斗の足が彼女へ向かう。ついていくか迷って、申し訳程度に離れ様子を見守ることにした。





魁斗…いや、もう魁斗とは呼べないかもしれない、彼が薔薇姫と目を併せた瞬間。彼が内心タジタジであろうことがよく分かった。


なんだあれは。恋する乙女か。
恋は媚薬、思考能力をまるごと削いでしまう。そんな言葉がふさわしい。



「……お前が、“薔薇姫”か。」




そう言う彼の言葉が震えていることは、否応なしに分かってしまった。

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空中三回転半宙返り土下座
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