花は紫宮に咲く 57
「……おうふ、辛口毒舌な鴛洵が新鮮で思わず抱きつきたくなっちまった」


あははと頭かき笑った櫂兎に鴛洵はホッとしてから、ゆらりと視線を霄太師に向ける。


「霄……お前というやつは」

「ふふん、わしがお前の目論見通り動くと思ったか?」

「……国が定まったのちは、茶一族あやつらは害毒にしかならん。この馬鹿め、せっかくつくってやった好機を……!」


吐き捨てるような言葉が、一年前の策謀の本意を垣間見せる。櫂兎は苦笑いした。


(……だからって鴛洵に死なれるのは、結構こたえたんだけど)


「お前は全く若者に甘いのう、鴛洵。何もかも御膳立てしたやることはなあな。お前が罪をひっかぶって死んでやるほどの価値もないぞ」


宋太傳も酒をあおりながら頷いた。


「まあ、確かにな。いくらお前が国を思いすぎる男だとはいえ、ちょっとやりすぎだろう。茶一族をなんとかするのは、新王たちの役目だろが。――お前がなんにもいわずに勝手に決めて死んだ時は、……結構キツかったんだぞ」


ぽつりと宋太傳の呟きに鴛洵は口をつぐむ。霄太師もそっぽを向いた


「そうじゃそうじゃ。手前勝手に死んだ奴の言うことなんぞきくつもりはさらさらない。この指輪を一年隠してただけでも有難いと思え」

「隠してただけならな! 私の――この姿は何だ!」

「有効活用しただけじゃ。この指輪が一番お前の魂を留めておきやすかったのでな」


余計なことを、と鴛洵は思った。隠してくれていたのが櫂兎ならよかったのに――


「魂留めはかなり繊細で難しいのじゃぞ。夏には散々ばて官吏どもの邪魔が入ったし、櫂兎はそれを面白がって見てるだけじゃし。まったくわしの術と熱意のタマモノなのじゃ。毎晩この高楼で月の光に当てたりとかして」

「――何のためにだ、霄?」


霄太師は不思議な笑みを浮かべた。だが問いには答えなかった。


「……あのニセ指輪は、わしからの贈り物じゃ。初めて人事に着手する新王が最後に残った雑魚をなるべく簡単に片付けられるようにのう」


そういやあっさりすぎて小物感半端なかったな、と櫂兎は思った。しかしいずれあのままでは嵐の目になったろう。腐った部分は切り落とさねば、周りまで腐らせる。


「……霄、お前、この国好きか?」


鴛洵の静かな問いに、霄太師は薄く笑う


「死ぬほど、嫌いじゃ」


言い捨てて、彼は盃を傾けた。


「次は、茶州――か」


櫂兎はすっと彼方を見据えた。







(花は紫宮に咲く・終)


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空中三回転半宙返り土下座
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