花は紫宮に咲く 32
朝議は正午前にひらかれた。秀麗の件より、先に片付けるべき案件があったからだ。査問会や噂の身の新進士国試不正疑惑の審議より、いきなり停止した城下、城内の機能回復のほうがはっきりいってはるかに重大かつ深刻だった。
そして開始早々、案件である城下の収束策について会議は紛糾する。


「前代未聞ですぞ」

「いくら紅一族とはいえ、やっていいことと悪いことが」

「昨日回ってきた案は、有効とはいえ長くはもたんでしょう。そもそも、紅一族以外の彩八家で彼らの代わりをするなどと……」


ぴくり、と絳攸の眉が動いた。絳攸の一歩後ろには何故か、連れこられ居た櫂兎が表情かえず騒がしい高官らを見つめている。櫂兎は本来、この場にはいられない筈なのだが、侍郎付きとして、いわばいてもいなくても同じ空気のような存在として朝議の場にいることをゆるされたのだった。もちろん、参加は出来ないため傍観に徹することになる。


そしてポツリと「代わりはない訳じゃ無いんだよなぁ」と誰にも聞こえない程度で呟いた。はっきりいって紅家の力は凄い。凄いが、個人個人、要所要所でみていけば各家で代わりがきかないわけでもない。城下機能させる代理もできなくはない、はず。
しかしそれらは口にせず朝議の行方に櫂兎は耳を傾けた。


「どうなさるおつもりか。万一このままの事態が続いたら――」

「藍家に収束を頼めば」


王の傍に控える絳攸に一瞬視線が集まるが、すぐに別の官吏によって却下された。


「馬鹿な! これ以上藍家の力を増大させるわけにはいかない」

「いや、そもそも原因はなんなのか――主上!」


向けられた視線に、落ち着き払って劉輝は答えた。


「少し考えれば原因など直ぐに分かるのではないか? 聞き知っておろうが、紅尚書がこの度証拠もないのに言い掛かりをつけられて拘束された。余もあずかり知らぬところで十六衛下部兵士を誰かが動かしてな。即刻とりなしたが、何を言っても紅尚書が出てこぬ。この騒ぎはそのせいだ。無理もないとは思わぬのか?――藍家と並ぶ名門中の名門、紅家当主を不当に拘束などすれば、紅尚書はもちろん、誇り高い紅一族が怒るのも道理」


しん、と水をうったような沈黙がその場を覆った。


「紅尚書が……紅家当主……?」


潰れたような呻き声がひとつ零れ落ちた。言葉はそれひとつだったが、その場のほぼだれもがその言葉を心に浮かべて居た。呆気にとられる人々に櫂兎は笑いを堪える。この世の絶望みたいな顔してる人までいるのだ、きっとあの黎深があの紅家当主だなんてと、世の中の不条理さやら何やら思っているに違いない。


「……ふむ、意外に高官の中でも知らぬもののほうが多かったのだな」


劉輝はやや驚いた風にそう呟くと、傍らの絳攸を振り返った。


「李侍郎は当然として、他に知っているものもあろう。どうか、黄戸部尚書」


鳳珠は黙って頷いた。


「藍家直系に連なる者として、藍将軍も知っているのではないか?」

「ええ。黎深殿に代替わりした際の話は兄達からきいております」

「どうだ、霄太師?」

「そうですな、かれこれ十四、五年ほど前、でしたかな。彼が跡目を継いだのは」


言葉継がれるたびに、その場の空気は冷たくなっていく。――ようやく、何故このような事態になったのか、彼らは心底理解した。

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空中三回転半宙返り土下座
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