花は紫宮に咲く 13
「……余は何も出来ていない気がする」


今日も二人の護衛から執務に戻ってきた劉輝は肩落として溜息ついた。櫂兎は苦笑いしては劉輝を優しい目でみた。


「陛下は今、彼らの武官でしょう? 二人の命を守ること、してらっしゃるじゃないですか。毎日報告して下さいますし、何かあったら連絡すぐくださいますし、悩むことは積極的に相談されてます。ほうれんそう、完璧です」


「櫂兎が武官いろはで言っていたからな! しかし…余では秀麗に向かう女人官吏への厳しい視線は無くせないのだ」


「……陛下は女人官吏を守りたいんですか? 秀麗さんを守りたいんですか?」


すっ、と櫂兎の目は鋭く劉輝を見据える。目の合った劉輝は、そのすみれ色にどきりとする


「失礼ながら、女人官吏制度を守るのならば、それは彼女自身が周りに知らしめ認めさせねばならないのですよ。秀麗さんを守りたかったのならば、陛下がこの度秀麗さんに国試受験させたのは愚策といいざるを得ません」


「…………余、は…女人官吏制度を…」


「よく出来ました」


よしよし、と櫂兎はさっきまでとは打って変わりにこにこする。というか、頭をぽふぽふされ、何とも子供扱いされている気がして少しムッとした。そう自分と歳離れていないはずなのに、どうして櫂兎はこうも何にも、まるで老齢のような振る舞いするのか。――実際は目の前の人物が劉輝の倍ほど歳食っているのだが


「陛下として――王としての選択は正解です。まあ、秀麗さんも問えばそうしろと言うでしょう」


そうまで言ってから、一度瞑目し、櫂兎は劉輝に再度、その細めたすみれ色の眼差しを向ける


「これからは彼女を、きっと女人官吏制度の確立に利用することになります。覚悟はお有りですか?」


「……覚悟は、する。――…櫂兎は、厳しいな」


「それはそれは、褒め言葉です。昔の私じゃ言えなかったでしょうし。少しは成長したのかと嬉しくなります」


それにしても、「覚悟はする」、とは陛下は素直でよろしいですね、と櫂兎は笑った。まだ出来たものではないのだから仕方なかろう。


「話をきいてくれて、その、ありがとう。少し、スッキリした気がする。…考えることも増えたが」


「あはは、それは許して下さい。私はお饅頭一口の話し相手ですから、答え役でもありませんし」


「今なら、一口と言わずまるごと一つ、何なら茶も付けておけばよかったと思う」


「それはそれは、嬉しい評価で」


では、長話もここで終えて、執務に入りましょうかと櫂兎は書類をどさりと劉輝に渡した。


「……多くないか?」


「内容は仕分けておきましたから、楽なはずですよ。ああ、最低限明日の朝議に必要な分がこれ、ここ7日で終わらせなければならないのがここから下の書類です。取り敢えずこれだけ終わらせて下さい」


上から書類をぺらりぺらりとみていく。確かに分かりやすく仕分けしてあるので仕事にかかりやすい。丁寧に資料がついているものもある。筆跡からしてわざわざ調べて櫂兎が書いてくれたらしい


「……絳攸に言って余付きの補佐係りにはなれないだろうか?」


「それは中々に大出世で。けれどもそれは受けられませんよ、私がいなくなったら絳攸が何処で遭難してしまうか」


「…………うむ。さっきの話はなかったことにしてくれ!」


遭難死されてはたまらないと劉輝は諦めたのだった。

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空中三回転半宙返り土下座
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