猛暑も和らぎはじめた夏の終わり、朝廷で一つの議案が可決された。
当初一笑に付された「国試女人受験制」であったが、王の作成した綿密な草稿と、何度も重ねられた根回しと討議の結果、この次の国試において実験的に導入されることが決まった。この件に関してはどのような心境の変化か、黄戸部尚書が突然賛意を表したことが最終的に可決となった最大要因であると言える。次期宰相候補とまで言われる紅吏部尚書、黄戸部尚書の二人が共に賛意を表したことで、なんとか可決にこぎつけられたこの議案は、当然のことながら同時に多くの反対を押し切ってのものであった。そのため、後世初の国試の女人受験として名高いこの年の試験には、様々な条件が設けられた。
まず、大貴族もしくは正三品以上の高官の推薦が必要であること、素性が確かな者であること、事前に会試を受ける実力があるかをみる適性試験をもうけ、それに通ること、男女の別なく扱うこと、もしこの実験的国試において誰一人女人合格者がいなかった場合、以後もとのように男子専制とし、女人国試受験を改めて廃案とすること――などであった。
一見、あまりにも女人受験導入派に不利に思えるこの様々な制約を、しかし王はたいした反論もせず首肯した。
「絳攸」
「なんです?」
「探してもらいたい者がいる」
絳攸が持ってきた、試験導入における書類が積まれる机に肘付き、劉輝は言った。
横で絳攸の分の書類をまとめる櫂兎の手が止まる
「それはどういう…?」
「この度の女人受験、秀麗以外にも合格するであろうものに心当たりがある。ただ、その者の行方が分からぬ、出来れば会って受験を勧めたい」
ふむ、と絳攸は手を組んだ。秀麗が合格するであろうことはほぼ間違いないと言っていい。しかし、どうせならば合格者は多い方が制度としても強みになる。しかし、王の心当たりの人物とは――
「華蓮といって、余の世話係をしていた女官だ」
ああ、あのトンデモな女官かと絳攸は思った。確かに王にあれだけ教え込み、かつ彼の話からは彼女の教養の高さがのぞけるというものだが
「……失礼ですが、その女官の年は…」
「知らん!」
「姓は」
「初めて会った時きいたがわすれた!」
「探す手立てや心当たりは…」
「ない!」
はあ、と絳攸は溜息をついた。後宮にいたのだから素性は確かなものなんだろうが、それが分からなければ意味がない。だいたい、その彼女に大貴族の宛があるかどうかもわからない――
「一応さがしておきます」
「うむ!」
いさみ返事した劉輝を、櫂兎は無言で見て、目を逸らした。
(黄金の約束・終)
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