倒れた黒ずくめの少年に水を飲ました秀麗は、彼の容体にほっと一息つく
「よかった。水分は飲めるみたいね。あとは冷却だけど……氷って高いのよね。特に夏は。ここらへんじゃちょっと無理だわ。しょうがない。燕青、うちにはこんでくれる? 葉先生には往診してもらったほうが早いわ」
「――私の家のほうが早い」
不意に聞こえた涼やかな美声に秀麗は振り返った。そして――絶句した
絵に描いた美人――どころの話ではなかった。絵にも描けない美しさ。そのあまりの美貌に秀麗と燕青は唖然として、その後ろにいる見知った顔にも気づかない。
「お前は! 怪じ……」
「この少年を助けたければ黙っていろ」
翔琳が鳳珠の顔を見て言葉しようとしたのを遮って、彼は曜春をそっと引き上げた
その姿さえ二人が見とれていれば不意にパンパン、と手をたたく音がして秀麗と燕青は意識を現世に引き戻された。
「大丈夫かーほれほれ」
目の前で手を振るのは――櫂兎
「櫂兎さん!」
「え、なんで櫂兎が?」
「んあ? ちょっと友人の野暮用をお手伝いだよ」
そうやって絶世の美貌の主を櫂兎はみる。二人は目を丸くした。
「櫂兎さんって…お知り合い多いんですね」
「俺にとっては世界が狭すぎるのさ」
きざったらしくきめる彼の言葉はほわりとした彼に似つかわない。秀麗は少し吹き出した
「さて、軒を宜しく我が友よ」
名をあえてよばない櫂兎に鳳珠は、こいつには借りがたくさんあり過ぎていつ返せるかわからんなと苦笑いした。
「お前たちはここで待っていろ」
「へ、あ、はぁ」
そうして鳳珠はおもむろに燕青に曜春をおしつけていった。すれ違いざまに「――くれてやった『みやげ』は全部片付いたんだろうな」と燕青に訊くのを忘れずに
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