今日は泊まると言う彼と、夜、邵可の自室でのほほんと話をしていると
「む……?」
「お客様のようだね。お入り」
その声と共に、あざやかに人影が現れた。
「……す、すみません、こんな夜分に」
あざやかな現れ方とうってかわっておずおずと自信なさげな小さな声である。
「久しぶり、珠翠」
「そこの椅子にお座り。今、お茶を淹れよう」
その急な訪問客――珠翠を二人は優しく迎えた。
「はい。そ、その……お饅頭をつくってきたんです」
「お饅頭?」
茶器を用意していた邵可が驚いたように振り向く
「はい。秀麗様が後宮にいらっしゃったときに教わりまして……あ、あの、お嬢様ほど美味しくはないと思いますけど」
顔を真っ赤にする珠翠を微笑ましげに櫂兎はみている。邵可は笑顔のまま続けた
「そうか、それはいいものをもってきてくれたね。じゃ、お茶請けにいただくことにしようか。そこの深皿に盛り付けてくれるかい?」
珠翠がぱっと顔を輝かせる。櫂兎はここに珠翠がきた理由を推測し話を振った。
「珠翠、香鈴ちゃんを茶州まで送り届けてくれたんだろ?お疲れ様、ありがとな」
「いいえそんな」
そうして茶州でのことを思い出したのか、珠翠が不意に笑う
「……なんというか、びっくりな大奥様でした」
「ああ。私もそう何度もあったわけじゃないけれど、一度会ったら忘れられない印象的な方だろう?」
「俺も州試のときの一度きりだけしかあったことなかったけれど――凄いよね」
州試合格祝いを茶本家で催してくれるという提案をしたのが彼女だったらしく、全員でわいわいと宴をしたが、そのときにもたくさんいる人間の中で一際存在感をはなっていた。
「はい。……あの方のもとでなら、きっと香鈴も立ち直るでしょう。いえ、そう思いたいだけかもしれませんが」
「大丈夫だよ」
邵可は穏やかな声で言い切った。櫂兎もこっくりと深く頷く
「香鈴と同じ――いや、もっともっと茶太保を愛し、愛されていた女性だ。そして、何よりとても強い方だ。あの方のそばにあれば、きっと大丈夫だよ」
「はい……」
珠翠はそっと目を伏せた。
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