「絳攸、軒に吊るしてた鶏、暑さにグッタリしてたぞ」
どさっと他部から回ってきた書類を中央卓に置き、櫂兎は絳攸に告げた。王が仕事をするようになって、まともに各部も機能し動き出しているのだ。当然、仕事もドカドカと増え、吏部に転がる人も増えた。
その上この夏の暑さ――さすがの櫂兎も普段より仕事の進みが2割減だった。
「鶏よりここにいる官吏のがぐったりでしょう」
疲れた声で絳攸は侍郎関係の仕事のみ拾い、尚書室方面へ向かう。
「……絳攸、王の執務室なら逆だ」
「んなっ!」
いやいや、絳攸。そこ、驚愕の新事実!みたいな顔するとこじゃないから。どうして俺を疑う目で見るかな……
「丁度執務室まで散歩にでもと思ってたんだ、一緒にいこうぜ」
ぐいと腕を引っ張り絳攸を廊下まで連れ出せば、「いつ吏部の扉は移動したんだ」などとブツブツ言いながら、またふらりと目的地と逸れる方向へ行こうとする。その度さりげなく正しい道を示すよう、少し前へ出て歩くのだ。……上司より前へでて歩くのはあんまりなあ…
「そうそう、戸部に『例の話』は通しておいた。人手不足だから助かるってさ」
「……! そうか……」
嬉しそうな顔をする絳攸に、うんうんと櫂兎は頷いた
「ちなみにここが執務室、それ以上先に進んでも厠しかないぞ」
「…………」
櫂兎は執務室の扉を開け、ちょつちょつと手をこまねかせる。
その言葉にぷるぷると震え踵をかえし、絳攸は執務室に入った。
「あ、棚夏殿」
中で壁にもたれかかっていた楸瑛が、扉を開け持つ櫂兎に声掛ける。
「今日は秀麗殿のところで絳攸や私も夕餉をとるのだけれど、棚夏殿はどうです?」
櫂兎は暫く考える仕草をしてから「遅れていくことになりそうかな…」と言った。
「忙しいんですか?棚夏殿が珍しい」
「なんだかそれ、普段仕事貰えない駄目な人みたいにきこえるぞ……
んーと、ちょーっとやりたいことがあってな」
へらり、と櫂兎は笑った
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