夕方には少し早いが府庫を二人で出て刑部に向かう
「……な、棚夏、邵可殿にも言われてたけどやっぱ顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「大丈夫、平気です」
「……そんな顔してよくそうやってほざけんな…
邵可殿のお饅頭、そんなに苦手だったのか? 俺はむしろお前が平気そうに飲んでたお茶の方が口に含んだ瞬間意識飛ばしそうになったぞー」
貘馬木殿にはお饅頭に反応してこうなってることバレバレらしい
「……邵可の、妻君。亡くなったみたいだったから、動揺してました」
「…饅頭一つでんなこと思い至ってたのか……」
慰めのようにぽふぽふと貘馬木殿は俺の頭を撫でた
「……機からみたら男色っぽいのでやめてもらえます?」
「素直じゃねぇ奴……」
やれやれと貘馬木殿は手を離した
「じゃ、感傷にひたるのは悪いが後だ。私情その他何もかも挟まず見極めるのが吏部。ほら、仕事だ仕事」
「……気をつかって休みにして下さるとかないんですね、分かってましたけど」
「おうよ。人なんてどーせ必ず死ぬんだから、それに対してとやかく思っても何にもならねーし。それより俺らにはすることがあるだろう。
あ、でも悼んで弔いはしろよ。この後にでも。幸い刑部は昼間仕事ないんだ、好きな時に墓参りでも行って来い」
なんだかんだそういうところで気の遣いどころ間違えないのが、らしいと思った。
夕方涼しくなってきた頃、ぞろぞろと刑部に人が集まり始めた。どうやらこれが刑部での『仕事時間』らしい
「ある意味今の時期一番いいかもしれませんね」
真夏のうだるい暑さも、夕方になれば若干マシになる。夜なら涼しいくらいだ
暑さの被害状況は刑部が一番少ない理由がみてとれた。
「明君も、邑君も、慣れるまで眠いかもしれませんが頑張ってくださいね。そうそう、尚書は昼間刑部の牢屋で棺桶の中に眠っておられますが、間違っても開けたり起こしたりしないように気を付けてくださいね」
そう、一通りの説明を侍童の指導というか世話係も任された人から言われる。
相変わらずの俊臣に、逆に安心しつつ、頼まれた雑用をこなした。
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bkm