「お前というヤツは――こんな時期に妓楼へ遊びにくるヤツがいるか!! 遊びたいなら一人で遊んでろ! 私は悠舜と櫂兎を連れて即刻帰るからな!!」
「ほーお、帰れると思っているのか? この状況で」
4人は嫦娥楼の庭の茂みで隠れていた。
嫦娥楼の大門の外ではすごい騒ぎになっていた。お酒ついでもらうだけに来る男って知られている顔なじみも店にいるのに…これがばれればもう入れないかもしれない
担架が行き交い、親分衆配下も総出で駆けまわり、怒号がきこえる
「その顔で二人を連れ歩いたらどうなるかくらいわかるだろうが。みんながみんな今までの受験者みたいにそろって気絶してくれるとは限らないんだからな」
今の鳳珠には禁句を黎深が発する
「騒ぎがやむまでここで時間をつぶして、ついでにさっき悠舜の言ってた女を探して――」
「馬鹿黎深っ」
俺の叫びもむなしく、鳳珠は黎深がいいやむ前に踵を返してどこかへいってしまった
悠舜が目を覆う
「……黎深、ほかの受験生が全員落第したこと、鳳珠がどんなに気に病んでいるか知っているでしょう。どうしてあんな言い方をするのです。
誰にも落ちない『傾国の琵琶姫』なら、もしかして鳳珠の顔にも動じないかも知れないと思って、気晴らしに連れてきたんでしょう?」
黎深がそっぽを向く
「探しに行くぞ、いいな」
俺の声に黎深はうなずかなかったが、悠舜に手をつかまれると、しばらくして立ち上がったのだった
鳳珠の入った部屋から、百合姫と鳳珠の会話が聞こえるのを三人耳をそばだてきいていた。
「『傾国の琵琶姫』の正体は百合姫かー。確かに黎深の目的達成かもだけど…」
悠舜はなぜこんなところに百合姫がいるのかと、おそるおそる黎深を見上げるが、黎深とはいうといたって平然な顔をしている。どころか、鳳珠がふらーっと回廊に出てくると、にやりと意地悪く笑った
「鳳珠、百合に惚れたのか? 百合はよっぽどの覚悟がないと無理だぞ」
こいつは…無自覚にもほどがある。黎深はいつ気づくんだろうと、俺はあきれ顔になる
鳳珠は黎深に図星をつかれ赤くなった
「わかってる! 彼女も言っていた。自分の主人はワガママ放題、だらしもないわ、人使いが荒いわ、迷惑かけまくりで昼まで寝こけるわ、とことんどうしようもないヤツだと!」
「ほぉおおおおう」
黎深が青筋を浮かべた
「あはは、一体どこの黎深なんだか」
「まったくだ、黎深みたいな男の風上にも置けないヤツがほかにもいたとはな」
悠舜が、さらにややこしくなったと頭を抱えた
「妓女などしているくらいだ。やむにやまれぬ事情があるに違いない。今は国試に専念しなければならないが――なんとしてでもそのどうしようもない主人から百合姫を助けてみせる」
「そーかそーか。せいぜい頑張れ」
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