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「まぁまぁ、落ち着いt「これが落ち着いてられるか!」――ほら、これでも飲んでさ」


 バカ王子から差し出されたヤシの実を受け取って飲んだ。うん、確かにうまい。


「美味しいな――って、そういう場合じゃないだろ! 無人島だぞ、ここは、多分!!」

「怒鳴らなくてもわかってるよ。まったく、サガはおこりんぼだな」


 あんた何歳だよ。頬を膨らます行為が可愛いのは未成年だけだ。だからこのバカ王子(二十七歳)には憎らしさと殺意が芽生える。

 なんでこんなのが一緒なんだ。溜め息が止まらない。どうせならフレイとかがよかった、群島出身らしいし、百五十歳オーバーらしいし。こんな無人島でも絶対に何十年でも生きていけるに違いない。


「こんなのとは失礼な! ぼくはこれでも無人島経験者だぞ」


 まるで心外だ、とでも言うようなバカ王子の態度には怒りも沸いてこない。だが、無視してもうるさいので最高に面倒くさい。とりあえず、人の思考読まないでほしい。


「……ちなみにどの程度なんだ。そのスキルは」

「フレイの話と父上の話で追体験」

 堂々と胸を張るヤツの急所に拳を叩きつけると、悶絶してへたり込んだ。これで少しは静かになる。


 とりあえず、瞬きの手鏡を試そう。ヘズの城を思い浮かべて、鏡に自分とついでにバカ王子も写すが、特に何も起きない。


「しばらくは帰れそうにないな……」


 何度目かわからない溜め息。ん? ちょっと待て。つまり、しばらくこの変人と二人きりの無人島生活? もしかしたら一生!?

 ぼくはあまりに不運な自分に落胆してしゃがみこんだ。

 とりあえずこんなところで野垂れ死ぬのはごめんだ。しばらくすれば瞬きの手鏡が回復するかもしれない。それまで持ちこたえるために、とりあえず薪と食べ物と水と寝床が必要だ。

 だが、物資を一人で集めるのは難しい。


「……おい、起きろ」


 まだぐったりしているバカ王子を揺さぶる。

 本当は起きてこなくてもいい。わずらわしいから。でも一人でこの広い島を歩き回ることは大変であり、日没まで時間もなさそうだから仕方なく起こすのだ。


「うう、サガが殴ったくせに……」 みぞおちを押さえながら、バカ王子が立ち上がった。


「悪かったと思ってないこともない」

「もうヒドいなぁ」

「自業自得という言葉を知れ! よくもあんなので遭難経験者だなんて――駄目だ。あんたに付き合ってたら日が暮れる……」


 気を取り直して、バカ王子に食べ物探しを任せた。


「美味しいもの取ってくるねー♪」


 ぼくは脱力しながらバカ王子を見送った。実際のところ、こいつのほうが放浪歴は長いのだ。フレイほどではないにしろ、あてにしていいだろう。

 さて、ぼくも薪と寝床を探さなくては。

 ――それにしても、なぜベルドアールまでテレポートさせられたのだろうか。

 このときの僕は、どうせこいつがその辺ですっころんだ拍子に巻き込まれたとか、その程度にしか考えていなかった。


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