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そのあと、僕たちはあっさりとヘズの城に帰ることができた。フレイからある程度事情を聞いたところ、テレポートと同時に壊れた鏡がビッキーとルックによって直され、ビッキーに飛ばしてもらったらしい。なんでも、あの子は事故を起こす前に南の島に行きたくなったようで、そのとばっちりを、僕と、何故かバカ王子が食らったらしい。
ちなみに、フレイによって解体された蟹のパーツも大量に持たされた。ちなみに、ベルドアールが真珠だと勘違いした巨大蟹の卵はそのままにしてある。フレイいわく海の掟らしいが、ぼくにはよくわからなかった。
「うわあぁ、二人とも心配したんですよぉ〜!!」
瞬き一つで城に戻った瞬間、涙声のヘズに抱きつかれた。
「え〜、サガばっかりずるいー」
バカ王子がうるさいのは無視。そして見せつけを含めてヘズを抱き返した。普段は絶対やらないけど、無人島から帰ってきてテンション上がってるからかも。
「ヘズ、心配かけてごめん。国際問題スレスレだっただろう。本当にすまない」
「そこに頭が回ってくれただけでサガさんのこともっと好きになりましたぁ……」
「え、どの辺が国際問題なの?」
……ちょっとでも見直したのを撤回したい。
「ベル、少しは自分の立場を理解しろ」
はてなを浮かべたベルドアールの頭をフレイが小突き、ようやく事態が飲み込めたらしい。ファレナは国の代表がこんなので本当に大丈夫なのだろうか。成り立ってるってことは周りがちゃんとしてるんだろうけど、ちょっと心配だ。
「まあ、みんなのおかげで帰ってこれたから問題ないって!」
ばーんという効果音付きで胸を張るベルドアールだが、偉そうにもほどがある。
「もし帰ってこれなかったらどうなってたと思いますか!? ぼくらが!」
「大丈夫、終わりよければすべてよし」
「そこのバカはいっぺん黙れ。ヘズが可哀想だ」
ぼくは本気で泣いて怒るヘズをなだめながら、キリッとしているバカ王子に言った。どんなに格好いい台詞でも、状況によってとても残念になるいい例だ。
「――だが、巻き込んだのはサガだろう?」
「ぼくがいつこのバカ王子を巻き込むんだよ」
フレイのわけがわからない言葉に憮然とする。そりゃ、ビッキーのくしゃみを引っかぶったには違いないし、確かに庇ってもらった礼も言ってないが。
「あの天間星から聞いたぞ。ものすごく熱い抱擁を交わしていたと」
「…………はあぁ?」
誰がこんなバカと好き好んで抱き合わなきゃいけないんだ。
「え、ちょ、フレイ、なんで今ここでそういうこと暴露しちゃうわけ」
僕はベルドアールを睨みつける。すごく慌てていたが、そんなにやましいのか。ほーう。
「いや、サガ、昨日ビクトールに飲み比べで負けた罰ゲームだから。それが後ろから抱きしめてアイラブユーとでも囁けだっただけで。……本当、本当だって! ――ああ、そうさ、楽しんでたとも! サガにちょっかいかけるのは楽しいからね!! ……だからその禍々しく光る右手を下ろしてえええぇぇっ!」
「…………裁き!!!!!!」
ヘズの城に一人分の断末魔がこだました。だが、ぼくに罪悪感はない。もちろん助けられた借りはある。
――しかし、冗談に助けられたなんて、恥ずかしいにも程がある。