5
砂浜の奥には洞窟があった。奥まで進んでみると、なんと温泉つき。うまく暮らせばこの島結構極楽かもしれない。寝床はここで決まりだ。
バカ王子もそれなりの食料を持ってきた。南国らしい果物と、ちょっと怪しげな草たち。
「これ……食べれるのか?」
怪しい、って言っているような、なんとも言えないまだら模様の植物を指差してぼくは訊いた。
「大丈夫だよ。ぼくファレナでそれ食べたことあるし。熱帯でしかとれない珍しい薬草だってセルヴァが言ってた」
「ちなみに効能は?」
「胃もたれ解消」
「あんたバカか」
――というようなやり取りが、夕飯を食べ終わるまでに数回あった。
とどのつまり、ベルドアールは世間ずれしているのだ。言い換えれば天然ボケ。ビッキーみたいな女の子ならまだしも、二十七歳の男では可愛げがないというか、正直情けない。
だから、こんなのに何度か面倒見られていたという事実が受け入れがたいのだ。昔会った“お兄ちゃん”はもう少ししっかりしていた気がするのに。
――ベルドアールといえば。
「なあ、ぼくがここにいるのはまだ理解できるけど、なんであんたもいるんだ?」
実は、ぼくはこの男がホールにいることに気づいていた。なるべく気づかれたくなかったから気配を殺していたけど、近くにはいなかったという記憶がある。
「え、やだ、言わせるの? 恥ずかしい!」
恥じらう乙女のように頬を染め、肩を抱いて顔を背ける男(二十七歳)。
「何言ってんだ、あんた」
「だって……言ったらサガ絶対怒るもん」
体を縮めてベルドアールは言った。本気で嫌そうだが……甚だ不愉快だ。
「普段から人の沸点下げてるやつが言う台詞か!」
「殴られても言わないからね! おやすみ!」
バカ王子はそう言い切って、洞窟に入っていった。
ぼくは振り上げていた右手のやり場に困った。