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 三人でホールに向かうと、大きな鏡が割れている。バラバラじゃりじゃり。しばらく裸足禁止令出さなきゃ。

 とりあえず、ぼくの口からは――


「……マジで?」

「くしゃみしたら、持ってた杖離しちゃって、思いっ切りぶつかって……」


 ごめんなさいの塊になった彼女を責めることはできない。これは事故、これは事故……。気を取り直してなんとかする方法を探さないと。


「ビッキー、落ち着こう。ほら、深呼吸……ヒッヒッフー……」

「ヘズも落ち着け」

「さて、これは直るものなの?」

「はい。でも、わたしの力じゃすぐには……」


 困った。二人の避けて追ってる猫とネズミみたいな関係の改善には時間がかかるから、平時なら大いに結構。大変なのは国際問題が現実に迫っていることだ。こういうのは時間の問題で、二人の故国に知らせるなら早いほうがいい。


「シュウに相談するか……」


 絶対怒られる。やだなぁ。トランには挨拶まわりしなきゃいけないし。ファレナはどうだろ。遠いし、書状でいいかな。あー、面倒い――


「――ヘズ、ヘズ!」

「うわちょ、なんですか顔近いですフレイさん」


 顔がよくても男のドアップはちょっと……。

 フレイさんは無表情のまま、ぼくには考えつかないようなことをあっさりと口にした。


「まったく、こういうのは人海戦術だろうが。石版見守るだけの簡単なお仕事してる天間星とかパシって鏡直させればいいだろう。今の天間星はそんなこともできないのか?」


 またまた目からウロコ。石版前から酷い殺気がするが、フレイさんは完全シカト。流石すぎて何も言わなくてもことが進む。


「ほらビッキー、泣くのはやめて。早くサガとベルを帰らせてあげよう?」

「船長さん……。はい!」


 さり気なくビッキーをフォローしているあたりに、推定年齢百五十歳以上の年季を感じる。


「ほんっと、流石ですねー」

「ん、何がだ?」

「モテる男は違うなと」

「……お前、さっきまでの悩みはどこいったんだ?」


 これまた珍しい、フレイさんの呆れ顔。

「フレイさんのおかげで大事にならずに済みそうです。いやぁ、助かりました。そういう柔軟性見習わないと」

「……ヘズの切り替えの早さは嫌いじゃない」


 少し照れたようなフレイさんの表情は永久保存版だな。心が軽くなったから思えることだけど。

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