メイド01「さすがは飛鳥家のご子息ですわね、彼の才能は素晴らしいです。」

執事02「彼が長男なら良かったのですが。
プライドが足りませんね、龍斗様は。」

メイド03「あまり大きな声でいうものではありませんわよ。
まあ龍斗様には申し訳ありませんが…次期当主は決まりでしょうね。」


龍斗タイトルコール04「幸福論7colors」


龍斗ナレーション05「僕は日本でも有数の名家の長男として生まれた。本来なら、誰にも負けることが許されない人生…。そう、本来なら。しかし僕は、一番負けてはならない弟に負けていた。」

龍斗06「…望んで長男に生まれたわけではないのにな…。」

亜希07「随分と贅沢な悩みなのね。」

龍斗08「……噂は本当だったのか……。」

亜希09「何か言った?」

龍斗10「いえ何も。来ると思っていましたよ、杠さん。」

亜希11「……?」

龍斗12「そう警戒しないでください。
噂を聞いて少し調べただけですから。
……随分と面白い方みたいですね。」

亜希13「そう…。
あなた程度が、私の何を調べたのか知らないけれど、そう思いたければ思えばいいわ。」

龍斗14「…程度…?
あなたは誰に向かって口を聞いているか、分かっていないようですね。」

亜希15「飛鳥龍斗18歳、飛鳥家の長男。成績運動ともに優秀で品行方正。」

龍斗16「わかっているじゃないですか。」

亜希17「コンプレックスは自分が弟に及んでいないこと。」

龍斗18「なっ……!」

亜希19「何か間違っている?」

龍斗20「帰ってください……。」

亜希21「図星をつかれたから?」

龍斗22「っ!…帰れと行っている!!」

亜希23「弟さんからだけじゃなく、人生からも逃げるの?」

龍斗24「……っあなたに何が分かる!
僕は…誰より優秀でなくてはいけない…。生まれた時から勝つことを義務付けられているんだ!!
ましてや弟になんて…。
あなたも周りの人間と同じだ…!
僕は……負けてなどいない…!!」

亜希25「嘘はいけないわね。
あなたは弟さんに劣っている。
事実は受け止めなきゃだめよ。」

龍斗26「違う!!僕は…僕は…!!」

亜希27「弟さんを憎むことしかできなくなっているのね…。」

龍斗28「……!!
…仕方ないじゃないですか……。
僕は誰より優秀でいなければ、存在価値がないんですよ…。」

亜希29「確かにあなたの人生には同情できるわ。
でもやっぱりあなたも間違っているわ。」

龍斗30「……聞きましょう。」

亜希31「確かにあなたは勝つことを義務付けられた人間だわ。
だけど、あなたは努力をせずに今の地位を手にいれた。」

龍斗32「…それは弟も同じです。」

亜希33「そうね。でも私が言いたいのは名家の伝統の話よ。
今まで長男に生まれた人が、何の努力もなく伝統を守ってこられたと思う?」

龍斗34「努力は才能にはかないません。」

亜希35「そうかしら。積み重ねた努力から生まれる奇跡ってあると思うわよ。
実際、飛鳥家には血の滲むような努力があったはずよ。弟どころか、妹や末子に負けていた人もいたはず…。
あなたは高貴な血統という立場にすがっているだけよ。
何の努力もなしに大義名分だけを手に入れようなんて考えがあまいわ。」

龍斗36「…返す言葉もありませんね…。
プライドがないと言われ、プライドを傷つけられた気になって…いつしか立場と権力だけを振りかざすようになっていた…。
そんな人間についてくる者がいないのも当然の結果ですね。」

亜希37「随分と素直なのね。」

龍斗38「…ここまで完璧に指摘されて反抗できるわけがないでしょう。
……あなたにまで負けて、これでは僕の立場がない。」

亜希39「目標は多い方が、これから努力できるでしょ?」

龍斗40「まったくあなたという人は…。
…ですが、ありがとうございます。」


龍斗41「…やはり僕も同じ、か……。」

執事42「どうかなさいましたか?」

龍斗ナレーション43「噂を聞いた。
"苦しんでいる人のもとに誰かが現れ救ってくれる"というものだ。
そして僕はある日から、飛鳥家を今まで以上の存在とするために努力を始めた。
自分でも驚いたが、弟以外にも負けられない人がいるように思えたからだ。
さらに不思議なことに、いつしか僕は噂で何を聞いたのかも思い出せなくなっていった。
しかし、それよりも大切なものを、空白のなかで、僕はもらっているような気がした。」



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