織香母01「何か困ったことはない?」

幼少織香02「うん。ありがとう。」

織香母03「何かあったらいつでも言ってね。」


織香タイトルコール04「幸福論7colors」


織香05「私は生まれつき身体が動かなかった。
だから、お母さんにはすごく迷惑をかけてきただろう。お母さんはいつも私に優しくしてくれるけれど、私はそれが苦しかった。
だけど、どうしようもなかった。」

亜希06「お邪魔するわね。」

織香07「えっと、あなたは…」

亜希08「あなたは何に耐えているの?」

織香09「え………。」

亜希10「私はどこにいても何となく誰かに陰が差しているとわかるの。
あなたもそうなんでしょ?」

織香11「あは…あはは……。
私ももうダメなのかな…死神みたいなことを言っている人が見えるわ……」

亜希12「死神なんて失礼ね。私は杠亜希よ。」

織香13「えっとじゃあ…亜希ちゃんはどうしてここに?」

亜希14「…あなたが耐えているのは身体のこと?それともべつのこと?」

織香15「…嘘は通じなさそうだね。
私、自分の身体のことは恨んではいるけど我慢しているわけじゃないの。
バカじゃないもの、身体が治るわけないってことくらい分かるわ。」

亜希16「それじゃあ…やっぱり……。」

織香17「うん。お母さんのことなんだ。
私のお母さんはね、すごく優しくて、私の介護や会社の仕事、そのうえ家事まで大変なのに、私の前じゃ絶対に弱音吐かないの。」

亜希18「それが逆に、あなたには辛いのね。」

織香19「うん…。本当なら家事とか手伝わなきゃいけないくらいなんだよ。それが負担になってるんだもん…。
私なんて、生まれてこなきゃよかったんじゃないかな…。」

亜希20「…本気で言ってるなら、病人でも容赦しない…。」

織香21「え?」

亜希22「よく聞いて。たとえ身体が不自由でも、ここまで育ててくれた親があなたを生まなきゃ良かっただなんて思うわけないでしょう?
だったらあなたもそれに答えなきゃダメ。
生きられるのに、親の気持ちを無下にするようなことを言ってはダメよ。」

織香23「それは…そうかもしれないけど…
でも私、迷惑をかけたくなくて…。」

亜希24「見かけによらず自分勝手なのね。」

織香25「え…?」

亜希26「だってそうでしょう?
迷惑をかけたくないとか生まれてこなきゃ
よかったとか、全部あなたの事情だわ。」

織香27「それはそうかもしれないけど、
…だったらどうすれば良いの…?」

亜希28「それは私には答えられないわ。」

織香29「どうして!?
やっぱり私が無力だから?自分1人じゃ何一つできないから?
だったら、生まれてこなくても同じよ!」

亜希30「…容赦しないと言ったはずよ。」

織香31「知らないわよ!
煮るなり焼くなり好きにすればいいじゃない!!
どうせ私なんて…!!」

亜希32「煮たり焼いたりなんてしないわ。
ただ、私はあなたに言わなければならない。」

織香33「何よ……。」

亜希34「あなたの言う通り、生まれてこなきゃよかったと思うのも1つの手だわ。
死にたいなら死んでも構わない。私には関係ないから。世界にも…。
けれど、死んだ後の結果は分かるはずないわよね。」

織香35「でもあなたが言った通りなんだよ…?
私がいなくなれば…お母さんだって楽になるわよ…!!
でもこんな身体じゃ、自分で命を絶つこともできない……。」

亜希36「あなたは本当に何も分かっていないのね。
確かに私や世界には関係のないこと。
でもあなたのお母さんはどうなるの?
あなたが死んだら、お母さんは自分の無力を呪うことになるのよ?私があの子を死なせたんだ…って。」

織香37「そんな……。」

亜希38「そんなこと考えていなかったでしょ?
覚えておいて、たとえ自分が死のうと世界に支障がなくても、あなたは誰かに愛されているうちの1人なんだって。
そうである以上、もう命を粗末に扱う真似はしないでね。」


織香母39「織香、入るわね。
…ってどうしたの?どうして泣いてるの?」

織香40「え…?あれ、ほんとだ…私、なんで……」

織香母41「どこか痛いの?お医者様呼ぼうか?」

織香42「ううん違うの…違うの……。
ありがとう、お母さん…」

織香ナレーション43「私は間違っていた。
お母さんの気持ちも考えないで死にたいと思っていた。こんなに愛されているのに…
これに気付けたのが何故だかはよく分からないけど、この時の涙は、少し温かかった」



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