▼小さいものから


 少し小さい余りガラスに、小粒のスワロフスキーをつけていく。ヴァーゴには彼女と同じ眼の色のガラスを渡した。それに鮮やかなピンク色の宝石を装飾している。あたしは淡い桃色のガラスに、水色のスワロフスキーで、月の形を作っていく。いや、ヴァーゴに「支倉ちゃんは月の形がいいと思うの!ほら、名前も美月だし!」と配色とセンスをガン無視した注文を受けて、水色の月を作っていた。ただでさえ小さい土台のガラスに、スワロフスキーでちゃんとした月の形ができるわけない、満月っていうか、ただの丸じゃない!

「でも、そう言う割には支倉ちゃんの、可愛いよ。ちゃんと月に見える」
「あたしには丸にしか見えないよ」
「満月だって空に浮かべばただの丸だよ!」
「結局丸じゃないの!」

 ライオコットに来てからも、余りガラスだけは持って来ていた。さすがにハサミは空港の持ち物検査で引っ掛かるだろうと、今回は日本で留守番してもらっている。結局それなりのハサミは買えたので、ステンドグラスの材料さえあればいつでも作れるけれど、いかんせんほとんどの時間をサッカーに持ってかれている。夕飯の後から消灯までの自由時間で、こうやって小さいものを作るしかなかった。

「支倉ちゃん、大人になったら職人になれるよ!」
「職人……まではいかなくても、大人になっても続けていくつもりよ」
「その夢、応援してもいい?いや、是非とも応援させてほしいな!」
「いいけど、スワロフスキーずれてるよ」
「あっ!!」

 先に言ってよー、と慌てて直すヴァーゴに笑みを送った。
 特にこれといって接点はなかった。ポジションも違うし、ただ同じチームだというくらい。夕飯前に寝てしまったあたしを起こしにヴァーゴが来て、部屋にあったステンドグラスのランプに興味を示したことが始まりだった。それからたまにパスや柔軟で組んだり、よく話すようになり、一緒に出かけたりもした。
 ヴァーゴと一緒にいると、何故か心が安らいだ。変に気を遣う必要がない、というか。一緒にいた時間は、小鳥遊や雷門のマネージャーたちに比べて、格段に少ない。長い付き合いを凌駕する、相性というものなのか。

「思ったんだけどさ」
「うん」
「多分、一緒のチームじゃなかったら、ヴァーゴとは知り合いにもならなかったんだなぁ、って思って」
「ええー、わたしは支倉ちゃんとこうして仲良くなれたの、運命だと思ってるんだけどなぁ」
「ちょっと壮大すぎじゃない?」
「わたし、支倉ちゃんと出会えて、本当に良かったって思ってるよ」
「そ、それはあたしも同じよ!」
「ふふ、照れっちゃって可愛い。ありがとう支倉ちゃん」

 可愛いのはどっちだか、美少女め。心の中で吐き出したものは、悪態ではなくもちろん褒め言葉だった。「あ、支倉ちゃん、ピンセット取って」、ピンセットを受け取る指先は、滑らかな曲線を描いている。整った爪は桜貝と同じ色をしていた。
 あたしはもう丸を描いて終わってしまったので、ヴァーゴの作業を暇潰しに観察している。手先は器用な方だとは思うけれど、たまに思い切って石を置いてしまって、それが予定の位置と違うことがあった。

「できた!」

 歓声を上げて自分のガラスを蛍光灯に翳した。ガラスの輝きを吸いこんで、ヴァーゴの瞳もそれに合わせてきらきら光る。

「はい、これ支倉ちゃんに」

 ヴァーゴの出来たての作品を手渡された。透きとおった碧のガラスに、濃いピンクで星座が描かれている。おとめ座だ。一等星のスピカの位置には、他の星よりも少しだけ大きい。

「予測はしてたわよ」

 ヴァーゴのを受け取って、あたしの作品を渡す。あたしの髪の色の空に、あたしの瞳の色の月が浮かぶ。処女作というがあたしから見てもよく出来ているので、ペンダントにして首に提げようか。

「えへへ、お守りにするね」
「う、恥ずかしいからそういうのやめて!なんだったらちゃんとした奴、作り直してあげるから!」

 見透かされたのかと思った。でも、あたしが作ったものを愛おしそうに扱ってくれるのは、悪い気はしない。

「ねぇ支倉ちゃん、今更なんだけど」
「何よ」
「下の名前で呼んでもいい?美月ちゃん」

 呼ばれ慣れていない名を、目の前のチームメイトはさらりと言ってしまった。もう呼んでるじゃない、反論は恥ずかしさのあまり赤面して固まってしまったので、声にはならなかった。
 ショートした思考回路を必死に動かして、満面の笑みを浮かべたヴァーゴの、髪と瞳の色を凝視する。大丈夫、この色は絶対に忘れない。日本に帰ったら、おとめ座をモチーフにした小窓を作ろう。誕生日に届くように送りつけてやる、ヴァーゴの家の窓とサイズ合わなくても。


▼匿名さまへ
二人ともオレブンに入ってはいるものの、組み合わせとして考えたことがなかったので、書いていてとても楽しかったです!
リクエストありがとうございました!
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