パレードが出発する直前に、秋と塔子は天使と悪魔の仮装をした春奈と冬花を見つけ、無事に合流できた。

「あれ?夏未さんたちは?」
「何故か連絡が取れないんです。迷子にでもなっちゃったんでしょうか」
「この人ごみの中見つけるのはきついなー。パレード終わったら皆ウチに集まるんだろ?」
「そうですよね、いざとなったら塔子さんの家に集合すれば!道は多分リカさんが知ってる……ことを願いましょう」

 配られたランタンは薄暗闇で妖光を放っている。おばけの団体は雷門駅前から商店街へ向かって進み始めた。この日この時間のためだけに、街のネオンは橙と紫に輝き、見物客も自前のランタンを作り、道を照らす。

「こういうイベント初めてだけど、皆凝ってるよなー、暗がりでも派手な人は派手だし」

 オールバックに慣れていないのか、ワックスで固めた頭を触りながら、塔子が呟いた。

「私もびっくりしました……昼の仮装コンテストはニュースで毎年見るんですが、実物を前にすると違いますね」
「みんな仮装での参加は初めてだよね」
「あれ、夏未さんとつくしさんは毎年来てるって情報が……」

 春奈の言葉に、全員が顔を見合わせた。つくしはまだ分かる、しかしあの夏未が……?

(魔女似合うだろうな)
(魔女かな、夏未さん)
(魔女ですよねー、夏未さん……)

 と三人が夏未の衣装を予想している間、秋はひとりだけ首を傾げていた。サッカー部の繋がりより交友が長いつくしが、秋に黙ってハロウィン・パレードに参加していた。

(ちょっと寂しいな)

 しかし、塔子の「いなかった三人にトリックしまくろうよ!」という言葉に、先程の寂しさはどこへやら、俄然やる気を出した秋であった。


「う」
「どうかして?」
「いや、なんだか寒気が」
「しっかりせえ、まだ始まったばかりやで」

 向かい風は冷たくぶつかってくるが、それとは別の寒気をつくしは感じ取った。
 地上の皆はパレードに夢中になって気付いていないだろう。魔女の仕事には仮装はしていいが、闇夜に紛れるために黒い服を着るのが決まりだ。

「で、雷門じゃ何撒くん?」

 かぼちゃ頭のリカが、魔法の杖を持ちながら弾んだ声で尋ねた。雷門の魔女たちは首を傾げる。

「撒くって、大阪じゃ何かやってるの?」
「え、雪とか飴とか降らさへんの?」
「そんなことやってるの大阪は!?」

 夏未とつくしの高度がガクンと落ちた。のろのろと持ち直すしてまたリカと並ぶ。

「そんな……メディアで騒ぎになるじゃない!」
「ああ、ハロウィンの奇跡やら怪現象やらで毎年新聞載るで!でも皆喜んでくれるし、こっちも楽しいしでええやん!」

 ジャック・オ・ランタンから覗くリカの瞳は輝いていた。夏未はため息をつき、つくしは苦笑いを浮かべる。

「でも、面白そう。雰囲気も出るし」
「お、大谷さん?」
「やろうよ!夏未さん!」

 箒の方向を変えて、リカと並んでリカと同じく眼を輝かせたつくしは、夏未に向かってガッツポーズをした。朱に交われば赤くなる。夏未は頭痛がしてこめかみを押さえた。

「あのねぇ……」
「夏未!このとーりや!」
「お願い夏未さん!」

 まさかつくしにこんな一面があったとは。いつもはパトロールして終了だったハロウィンに、夏未もマンネリ化を感じてはいた。おばけが驚くので夜のパレードは全面的に撮影禁止だが、もしこちらが何かすればカメラが回るかもしれない。その証拠を消すのはこちらであり、あってはならない残業だ。さらに魔法の練習をしていない、杖なんて飾りである。

「被写体にならへんようしてるから、その辺は平気やで。目撃証言だけや。新聞だって記事はあっても写真載っとらんし」
「長い間、魔法を使っていない魔女でも簡単なんだって!」

 二人に気圧されて、首を縦に振りそうになる。夏未だって魔法は使ってみたい。しかし、それにかまけてパレードの観察を怠るのではないか。夏未の中の善と悪の気持ちが揺れる。……仕方ない、年に一度のお祭りなのだ。

「トリック・オア・トリート!」と、夏未は凛とした声で二人に手を差し出した。
「え、夏未さん?」
「トリック・オア・トリート。今回はそれで許してあげてもよくってよ」

 やったーっ、の歓声とともに再度ガッツポーズをして、大粒のキャンディをそれぞれ取り出す。リカはソーダ味、つくしはメロン味。少し離れて飛んでいた夏未に近寄って、それぞれ手渡しした。夏未が飴を受け取ってもまだ離れようとしない二人に、「まだ何か」と告げると、

「夏未も共犯やで!」
「そうだよ!夏未さん、トリック・オア・トリート!」

 頑なになっていた自分におかしくなって、強張っていた顔に、今夜初めて笑顔が浮かんだ。貰った飴をしまい、自分が持ってきた分の飴を取り出す。いちご味の大粒キャンディを、夏未は軽く投げて寄越した。


20111103
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