・三人は本物の魔女


「リカさん、本当にその格好で行くつもり?」
「大阪じゃいつもこれやで」
「まあまあ夏未さん、リカさんなら大丈夫だよ」
「だからって、ジャック・オ・ランタンのかぼちゃをかぶることないじゃない。私たちは魔女よ?前方不注意で落下でもしたらどうするの」
「平気や言うとるやろー!夏未は心配性やなぁ」
「本人もそう言ってるし、ね、夏未さん」
「大谷さんも大谷さんよ!マスカレードの衣装は素敵だけど、その仮面で視野が狭くなるじゃない。ドレスもかさ張ってるし……どうやって箒に乗るの」
「さすがに飛ぶときは仮面取るよ。箒も、横に跨って乗るから大丈夫!」
(不安だわ……)

 普段は中学生、一年に一度のハロウィンの日は魔女。その役目も、ハロウィン・パレードを上空から見守ることだけだ。魔女としての活動はハロウィンの夜数時間だけなので、私生活にはなんら問題はない。たまに箒の飛行練習をこっそりするくらいである。
 今まで雷門周辺のパトロールは雷門夏未と大谷つくしの二人で行っていたが、今回は浦部リカが大阪から遊びに来たので、三人での飛行となる。

「リカさんは、大阪の方はいいの?」
「あー、平気平気!ウチの他にもう二人魔女がいてな。今回は二人に任せた!」

 雷門駅からすぐ近くの、誰も通らなそうな路地裏に、魔女の格好をした魔女と、かぼちゃ頭に黒いローブ、黒と紫の仮面舞踏会ドレスの少女が、それぞれ愛用の箒を持って、来るべき時を待っている。あと五分くらいでパレードが動き出す。パレードの参加者はかぼちゃのランタンが配られるので、上空から見ても自然と光の列が浮き上がる。ちなみに中は本物の蝋燭ではなく、おもちゃの蝋燭なので火事の心配はない。安心設計である。

「パレードが終わったら、誰にも見つからないように着陸して、木野さんたちに合流するわよ」
「はいはい」
「秋ちゃんたち心配してないかな、参加するって言っちゃったし、無断で出てきたようなものだし」
「それは心配だけれども……。あら、そろそろ行きましょう!」

 夏未の言葉に、場に緊張が走った。それぞれ箒に跨って、一人ずつ地面を力強く蹴って飛び出していく。つくしは仮面を取り、リカは頭のかぼちゃを押さえながら。夏未も自分のとんがり帽子を手で押さえて、安定するまで片手飛行をする。それでも、早く絶景を見たいがため、恐る恐る下を覗く。

「わぁー!めっちゃキレイやん!」
「本当!いつ見ても素敵!」
「そうね!いつもは大谷さんと二人だけだったけど、人数が増えるのもたまにはいいわね!」
「あーっ!夏未がデレたー!」
「夏未さんがデレたー!」
「ちょっとあなたたち!真面目に仕事なさい!」

 きゃはは、と賑やかな声が空に響いた。眼下には、小さなオレンジ色の光が集まって、大きな列を形成していた。家の光と、街灯と、ランタンの火が、雷門駅の通りを彩る。雲の少ないハロウィンの夜、三日月はくっきりはっきりと輝いていた。


20111031
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