雷門駅前には、ハロウィンならではの光景が広がっていた。街はオレンジと紫をベースに彩られ、集まった人々はそれぞれ妖怪やおばけの仮装をしている。まだ夕焼けは広がっているが、パレードが終わる頃には闇に包まれるだろう。街頭に飾られているかぼちゃランタンも、明日になれば全て撤去される。装飾に寂しげな目を向けている春奈を気遣ってか、冬花が何気なく話しかけた。
「皆さん遅いですね」
「そうですねー、木野センパイと塔子さんは下ごしらえがあるので分かるんですけど、夏未さんとリカさんはどうしたんでしょうか」
「つくしさんを迎えに行くって言って、それっきり……。それにしても、夏未さんとリカさんって珍しい組み合わせですよね」
「確かに!」
にこやかに笑った春奈は悪魔の仮装をしていた。上は長袖で、黒のホットパンツにニーハイソックスを履いている。本人曰く寒くないらしいが、十月の終わりの夕方に、その格好は絶対に寒いだろう。
「せめて、手だけでも」
「え?」
冬花が急にアクションを起こしたので、少しだけ身を竦めてしまった。冷えきった両手を、冬花の温かい手が包む。
「春奈さんの手、すごく冷たい」
「え、ああ、はい、ごめんなさい」
手よりも顔が熱い。冬花が優しく擦ってくれ、だんだんと体温が春奈の手へと移っていく。
(抱きしめたいな、でも、衣装が……)
春奈の背には悪魔の羽根がついていて、手を回すとしても腰の位置になってしまう。想像してまたもや顔の熱が上がっていく。
「ふ、冬花さん」
「はい」
「冬花さん、本当に天使だったんですね!」
「へ?」
首を傾げると、それに合わせて頭上の天使の輪が揺れた。冬花の天使の衣装は、暗くなりつつある街の中でも、優しく光っている。
20111031
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