暗闇の中で鈍く光る

トロスト区壁上では駐屯兵団によって砲弾による巨人殲滅が行われていた。固定砲は火を噴き、迫り来る巨人達にぶどう弾の雨を浴びせる。ぶどう弾は巨人達に命中するものの致命傷程のダメージを与えることは出来ず、巨人達は蒸気を発しながら破損した部位を再生しながら侵攻してして来る。
倒れても起き上がり、起き上がっては砲弾を降らせる。鼬ごっこだ。
「こんなの大した時間稼ぎにもならない!」
「馬鹿野郎!お喋りする暇があったら連射力を高めろ!お前の女房も娘も壁の中だろ!?」
「ああ!これ以上は巨人を街に入れたくねえ!しかし、奴らに大砲は……」

項を切り取らなければ巨人は絶命しない。撃っても撃っても切りがない程巨人達は歩みを止めない。地面には、前衛の巨人掃討部だった同胞の死体が散らばっている。鉄が錆びたような血生臭さと煙臭さが周囲を包み、まさに地獄だった。



「もう……駄目だ……」
何の前触れもなく五年ぶりに現れた超大型巨人によってトロスト区の門が破られ、駐屯兵団と訓練兵団合同の討伐作戦が決行されて早数時間。本部にいる補給支援班は絶望に包まれていた。
彼らは、街中を飛び回る情報伝達班、巨人掃討班へ立体起動装置のガスを補給する任務を放棄し、息を潜めて本部に立て籠もっていた。
「終わりだ…」
机でバリケードを作り、その場を凌ぐために息を潜めるていると誰かがぽつりと呟いた。

目の前の窓には巨人が張り付いて、感情の読めない表情で部屋の中を窺い、人間を捕食しようと腕が伸ばして壁を突き破る。彼らは、巨人の腕に絡め取られた仲間をただ見ていることしか出来なかった。




本部には三メートル級から十五メートル級まで大小様々な巨人が群がって、おまけにガス補給室に数体巨人が侵入してしまっている。
「クソッ!どうすんだよ!?」
補給支援班はすっかり戦意喪失してしまったようだった。
「どうもこうもねえよ……やっと撤退命令が出たってのに、ガス切れでオレ達は壁を登れねえ……。そんで死ぬだろうな、全員。あの腰抜け共のせいで……」
頭を抱えて屋根の上に腰を下ろしているジャンは、巨人が群がっている本部へと視線を向けた。ジャン達は仲間に見捨てられたのだ。
「戦意喪失したんだと。気持ちは分かるけどよ、オレ達への補給任務を放棄して本部に籠城はねぇだろ……。案の定、巨人が群がってガスを補給しに行けねえ」
残り僅かなガスで壁を登ることすら出来ない現実と、もう助からないという絶望がジャン達を鉛色の重い空気が包む。すっかり青冷めた表情のジャンの言葉に、コニーは痺れを切らした。
「――だから!イチかバチかあそこに群がる巨人を殺るしかねえだろ!?オレらがここでウダウダやってても同じだ!」

いずれここにも巨人が集まって来る。コニーに言われなくとも、そんなことはジャンだけでなくこの場にいる全員が理解している。巨人は人間が大勢いる場所に引き寄せられる性質がある。まさに今、喰べられるその時を屋根の上で無様に待ち続ける哀れな家畜のようだった。
「いたずらに逃げ続けてもオレ達の残り少ないガスを使い果たすだけだ!機動力を完全に失えば本当に終わりだぞ!!」
「……珍しく頭を使ったなコニー。だが、今のオレ達の兵力でそれが出来ると思うか?前衛の先輩方はほぼ全滅だ。残されたオレ達訓練兵の誰にそんな決死作戦の指揮が採れる?」
ジャンは周囲を見渡した。近くの屋根に集まった同期達は腰を降ろして皆一様に項垂れている。

泣いている者。絶望している者。ジャンはそんな同期達を見やった。現状をしっかり把握した上で打開策はないとばかりに言葉を続ける。
「まあ……指揮が出来たところでオレらじゃ巨人達をどうにも出来ない。おそらくガス補給室には三、四メートル級が入ってるぜ?当然そんな中での作業は不可能だ」
その言葉に何も反論出来る余地がなく、コニーも黙ってしまった。ここで終わりを待つだけが自分達に残された最後の道だと思うと、ジャンは深い溜息を吐いた。あまりにも短い生涯だった。胸に残るたった一言を、ミカサに伝えなかったことを後悔する。

「やりましょうよ、皆さん!さあ!立って!!」
妙に明るい掛け声がジャンの耳に入る。
「皆が力を合わせればきっと成功しますよ!私が先陣を引き受けますから――」
サシャの言葉はジャンの耳に入ってそのまま外へ抜けて行く。周りの同期達もサシャの言葉に首を縦に振らず、ずっと下を向いて現実に打ちひしがれてしまっていた。

恐怖に呑まれてしまった相手には、どんな言葉を掛けても考えることを放棄してしまっている。
「アルミン、一緒に皆を……」
隅の方で放心しているアルミンも、蒼い瞳を見開いたまま動かない。それでも悪足掻きをしようと試みる者もいる。
「ライナー……どうする?」
「まだだ……、やるなら集まってからだ」
「駄目だよ。どう考えても……僕らはこの街から出られずに全滅だ。死を覚悟してなかった訳じゃない。でも……一体何のために死ぬんだ……」
マルコが弱々しく言った。

彼の言う通り、この状況は死ねと言われているようなものだとジャンは思った。暗い空気が漂う中、それを払拭するような一陣の風が吹く。少しだけ焦った表情を浮かべるミカサがアニへ駆け寄った。

「アニ!……何となく状況は解っている。その上で……私情を挟んで申し訳ないけど、エレンの班を見かけなかった……?」
「私は見てないけど、壁を登れた班も……」
「そういやあっちに同じ班のアルミンがいたぞ」
アニとライナーが言うと、そのままミカサがアルミンの方へ駆け寄る。彼女は、俯いてビクともしないアルミンに優しく声をかけた。
「アルミン、ケガはない?……大丈夫なの?」
アルミンは、こくりと頷くだけだ。
「エレンはどこ――?」
「僕達……訓練兵達……三十四班――」
急に顔を上げたアルミンの顔は青白く、空色の大きな瞳から大粒の涙がぼろぼろと溢れ落ちる。それを見たジャンは、嫌でも悟ってしまった。

嗚咽で喉が詰まりそうなアルミンの叫び声は、周囲の空気を震わせて響いた。
「トーマス・ワグナー、ナック・ティアス、ミリウス・ゼルムスキー、ミーナ・カロライナ、エレン・イェーガー、以上五名は自分の使命を全うし……壮絶な戦死を遂げました……」
三十四班がほぼ壊滅。エレンが死亡した知らせは、その場にいる者全員に衝撃を齎した。口々に弱音を吐く同期達に混じって、後方から誰かが息を呑む声がした。
「ミーナが……?」
「……ナマエ!?――って、傷だらけじゃないですか!?どこかケガでも……」
「大丈夫だよ、サシャ。どこも……、痛くないから」
そこには、傷だらけのナマエがぽつんと立っていた。慌てているサシャに、彼女は何ともないような口調で言った。隊服は砂塵で汚れ、ところどころほつれてボロボロになっている。
「ナマエ、お前一人なのか?他の班員は……」
「皆巨人にやられた……。とにかく一人でいるのは危険だと思ったから、他の班と合流しようと思って街中を移動していて……皆が集まっているのを見付けて……」
ライナーが気まずそうに尋いたが、この場にいる全員はナマエの班員がどうなったか察していた。

語られる事実に、その場にいる全員の顔は更に暗い色になる。
「ごめんミカサ……ナマエ……。エレンは僕の身代わりになって、ミーナは巨人に捕食されて……」
「――ミーナが死んだっていうのは……嘘だよね……?」
ナマエの口調が震えている。今にも泣き出しそうな声なのに表情は何もなかった。おまけに黒い瞳には少しの涙も浮かんでいない。それが少しだけ、ジャンには不気味に映る。泣きながらひたすら謝るアルミンの姿が痛々しかった。
「僕は……何も、出来なかった。すまない……」
アルミンのすすり泣き以外聞こえなかった。彼らを嘲笑うかのように、湿った風が吹いた。
「……そう」
ナマエは一言だけ平坦に言葉を発してから、俯いてしまった。ミーナと同郷だという彼女にとって、あまりにも残酷な現実が突き付けられた。今、彼女がどんな顔をしているのかジャンは解らなかったけれど。
「……信じない、」
湿気を浴びる空気に混じり、ぽつりと呟かれた声。それは現実を拒絶するような色だった。

「アルミン――落ち着いて。今は感傷的になってる場合じゃない。さあ、立って!」

しん、と静まり返る中ミカサの透き通った声がどんよりとした空気を切り裂いた。皆、アルミンに発破をかけているミカサを黙って見守っている。
「本部に群がる巨人を排除すればガスの補給が出来て皆は壁を登れる――違わない?」
「あ、あぁ、そうだ。し、しかし……いくらお前がいてもあれだけの数は――」
「出来る」
マルコの意見をミカサがきっぱりと切り捨ててしまった。

普段あまり自己主張をしない彼女の珍しい姿に、ジャンは目を見張ってしまう。エレンを喪っても尚、彼女は挫けずに戦おうとしている。巨人の項を刈り取ることに特化されたブレードを、曇天へ掲げると鈍く光った。全員が、ミカサの演説に耳を傾ける。
「私は……強い……あなた達より強い……すごく強い!……ので私は……、あそこの巨人共を蹴散らせることが出来る。……例えば……一人でも。あなた達は腕が立たないばかりか……臆病で腰抜けだ……とても、残念だ。ここで指を咥えたりしてれば良い。咥えて見てろ」
臆病な同期達へ向けられた言葉は、鋭利な刃物のように鋭く斬り付けられた。

的確に図星を突いて来たミカサの言葉に、同意する者は誰もいない。それどころか、腰抜け呼ばわりされた皆は口々に反論し始める。
「ちょっとミカサ?いきなり何を言い出すの!?」
「あの数の巨人を一人で相手する気か?そんなこと出来る訳が――」
「出来なければ、死ぬだけ。でも勝てば生きる……」
感情が読み取り難い平坦な口調。それが尚更ジャンに現実を突き付けて来る。カツカツと淀みなく足音を立てながら屋根の上を歩くミカサは、口々に反論する同期達を振り帰らなかった。

「戦わなければ、勝てない」
そうたった一言だけを残して飛び去ってしまった。
遠くなるミカサの後ろ姿に、ジャンはグリップを握る手に力を入れた。

少ない語彙力と纏まりのない文脈。子供のような稚拙な演説なのに、何故力が湧いて来るのだろう。
「残念なのはお前の語彙力だ。あれで発破かけたつもりでいやがる……」
ジャンは、ヨロヨロと力なく立ち上がった。ただ、これだけは解る。ここが死に場所ではないということを。
「オレ達は仲間に一人で戦わせろと学んだか!?お前ら!本当に腰抜けになっちまうぞ!!」
まだ負けていない。諦めるには早過ぎる。

ジャンは周りの訓練兵達を煽動してから、アンカーを発射させてミカサの後を追う。後ろから決死の雄叫びが響いて、多くの人数がアンカーを発射してガスを蒸かせる空気を感じ取った。
「とにかく短期決戦だ!オレ達のガスがなくなる前に本部へ突っ込め!!」
「しかし、すげぇなミカサは!どうやったらあんなに速く動けるんだ……」
ミカサが目の前の巨人を、的確に素早く斬り伏せて道を創って行く。ジャン達はその後ろを追いながら、必死に街中を飛ぶ。コニーがミカサの立体起動の速さに感心しているようだが、ジャンはそれどころではなかった。

とにかく本部でガスを補充して、壁を登ることしか考えられなかった。『今日生き残って、明日内地へ行くんだろ』と、死に急いだ同期の声が聞こえて腹が立つ。暫く前進すると、前方を鳥のように飛んでいたミカサの立体起動装置は機動力を失い、真っ逆さまに落ちて行った。
「ミカサ……!」
「クソッ……」
「ジャン!お前は皆を先導しろ!オレがアルミンに付く!」
先頭のミカサの姿は、トロスト区の街に吸い込まれて見えなくなってしまった。
アルミンとコニーが、ミカサが落ちて行ったであろう方向へアンカーを発射する。ジャンも一緒に向かおうとすると、他の仲間を先導しろと言われてしまった。
「巨人はまだいるんだぞ!?お前の腕が必要だろうが!!」
後続の皆を引っ張っているのは、他でもない自分だった。彼らを扇動したのはミカサだが、背中をひと押ししたのは他ならぬジャンなのだ。
まだ本部まで距離もあるし、ガスだって残り僅かである。ジャンは、今やるべきことを理解していた。コニーに尤もなことを指摘されたジャンは、そのまま進路を変えずに本部へと向かうことにした。




「ダメだ、本部に近付くことすら出来ない……」
本部の方を眺めて冷や汗を流していた。本部に近付けば近付く程、巨人の数は増えていた。ここから先は、誰かを犠牲にする覚悟をしない限り進めない。

彼はまだ気付いていない。何かを成し遂げるために、時には他人の屍を積み上げて進まなくてはいけない冷酷さも必要だということを。
「うわあぁぁぁ!!」
誰かの痛ましい叫び声が聞こえた。地上には、ガス切れで屋根に登れない仲間が何人もいた。背中の立体起動装置からは微量のガスしか排出されていない。

完全に彼らは機動力を失ってしまっていた。助けようと足を踏み出したものの、周囲には巨人がわんさかと集まり始め、最後の一歩で踏み止まってしまう。やはり、死ぬのは怖い。そこに一人、仲間を助けようと飛び出す者がいた。
「トム!今助けるぞ!」
「よせ!!もう無理だ!!」
巨人に掴まれてしまえばもう遅い。止める言葉に耳を貸さずに飛び出した仲間が、悲鳴を上げながら巨人に喰われて行く。
肉と骨が軋み、鮮血が爆ぜて命が散る。その様子をジャンは青い顔をしたまま、建物の屋根の上から眺めることしか出来なかった。

何故止められなかったのか。どうして止めなかったのか。強引にでも止めていればこんなことにはならなかっただろう。後悔が押し寄せ、臆病な自分に嫌気が差す。その癖、グリップを握る手は勝手に震えてしまう。ジャンは何度も何度も、自問自答を続けた。本当に、自分には責任のある立場になる資格があるのだろうか。臆病者には人を導く能力――人望があるのだろうか。
「嫌だ、嫌だ!死にたくない!」
「助けて、誰かッ!誰か――」
サシャもマルコもナマエも、他の仲間達も。顔を青冷めながら、巨人に仲間が喰われている光景をただ見つめている。この惨たらしい光景に、目を背ける者は誰もいなかった。だが、生きたまま喰われ続ける仲間を助けることもせず、彼らが死ぬのを建物の上から眺めているだけだ。

肉を噛み千切る湿った音。仲間達の断末魔。周囲に飛び散る夥しい血の量。血の臭いに誘われて次々と集まって来る巨人達。
ジャンは地獄絵図を目の当たりにして、瞼を閉じてから気が付いた。巨人が少しでも、捕食行為に気を取られている今がチャンスなのだ。言葉は悪いが、仲間の死を利用する。彼らの犠牲を無駄にしてはならない。どのみちガス欠になれば、皆仲良く巨人の腹の中なのだ。
「今だ!!今の内に本部に全員で突っ込め!!」

アンカーを放ち、遠心力の力で目一杯前進する。巨人達の合間を縫って掻い潜る。立体起動装置を必死に操作する。
生き残ることに全神経を集中させた。後方で巨人に掴まれて悲鳴を上げる仲間が何人もいたが、ジャンは構わずに前へ前へと進み飛び続ける。途中で巨人に左脚を掴まれたが、何とかブレードで巨人の指を斬って脱出する。危機一髪だった。
「ジャン、ありがとう!ジャンのお陰で逃げ切れた!前にも言ったろ?ジャンは指揮役が向いてるって」
屋根に着地して走っていると、後ろからマルコが追い付いた。
「どうだか!解りゃしねぇ!」
彼の言葉にジャンは少しだけ口角を上げる。自分が指揮役に向いているなんて、これっぽっちも思っていない。

前方に本部が見えた。建物の位置を確認して、屋根から跳躍する。目前に迫り来る本部の建物へ突っ込むために、立体機動装置に残っている全てのガスを最大限吹かして身を屈めた。

ガシャンと窓ガラスを突き破り、身体が硬い床へ叩き付けられた。心臓が暴れるようにどくどくと鼓動する。周囲を見渡せば、沢山の書物が並べられた本棚やテーブルと椅子があった。無事に本部に辿り着けたのだとジャンが理解してから、直ぐマルコ、サシャ、ナマエ達も窓ガラスに突っ込んで来た。ガラスが甲高い音を立てて、バラバラに砕け散る。
巨人の大軍を潜り抜けることが出来たのも、死んで逝った仲間達のおかげだ。目的地に辿り着いた人数は、最初に比べて大分減っていた。
「何人……辿り着いた……?仲間の死を利用してオレの合図で、何人……死んだ……?」
目の前で喜び合う彼らを眺めながら、ジャンは自分を責めた。

もっと優秀な人間が指揮を取れば、もっと生き残ったかもしれない。ここに辿り着いたのも、彼らの犠牲の上なのだ。己の責任の重圧に耐えていると、ふと人の気配を感じた。
「お前らは補給の班だよな……?」
「ああ……」
机の下に隠れている補給支援班達が、泣きながら震えていた。自決したであろう男の返り血が、机一面に飛び散っている。外で戦っている自分達を見捨てて本部に篭り、あろうことか自決するなんて。

虚ろな返事をした男の胸倉を掴んで、ジャンは思いっ切り殴りかかる。
「よせ、止めるんだ!ジャン!」
「こいつらだ!オレ達を見捨てやがったのは!!てめぇらのせいで余計に人が死んでんだぞ!?」
マルコに羽交い締めされるが、ジャンの怒りは抑えられなかった。補給支援班がしっかり機能していればガス欠を起こすこともなかったし、何より仲間を死なせずに済んだ。人の命を預かる重圧と責任を背負うこともなかったのに。
「補給所に巨人が入って来たの!どうしようもなかったの!!」
「それを何とかするのがお前らの仕事だろうが!!」
仲間に裏切られ、死に物狂いでここまで辿り着いたのだ。ジャン達がどんな気持ちだったか、本部に立て籠もった補給班には解らないのだろうか。
「――ジャン、今は補給室の巨人を斃すのが先決だよ!」

泣き喚く彼らに、ジャンの苛立ちが爆発すると今まで静観していたナマエが補給班の肩を持つような言い方をしたので、余計に苛立った。
「ナマエ、お前は何も感じねえのか!?こいつらのせいで……死ななくても良い仲間が大勢死んだんだぞ!」
「わ、私だって何も感じない訳ない!彼らを責めるのは後にして、ガスの補給を――」
ジャンの言葉にナマエは心外だと言わんばかりに眉根を寄せた。
「おい、お前ら伏せろ!!」
ライナーが叫んだと同時に大きな衝撃が本部内を襲った。 建物の壁が破壊され、瓦礫が飛ぶ。ジャンはナマエと一緒に身を屈めた。

人が集まり過ぎて巨人が顔を突っ込んで来たのだ。本部内は大パニックになった。一斉に奥に逃げようとしても部屋の構造上無理があり、立ち往生するばかりだ。
「ミカサはどこ行ったんだ!」
「ミカサはとっくにガスを切らして喰われてるよ!」
背後で仲間達が口々に喚き散らす。砂塵が舞う。石造の建物がボロボロと崩れて、大きな穴が出来た。そこから、二体の巨人が顔を覗かせていた。

今、目と鼻の先に――巨人がいる。二体の息遣いもすぐそばで感じた。彼らは、鳥籠に囚われた人間達を眺めている。ジャンは、現実というものを良く認識しているつもりだった。エレンのように、現実離れした夢見がちなタイプでもない。普通に考えれば、図体が大きい奴らには勝てないことぐらい知っていたはずなのに。
思い上がりも甚だしい。ジャンは、夢か幻を見ようとしていたのだろうか。
「何だあれ…!?」
目の前の二体の巨人が物凄い衝撃を受けて吹っ飛んだ。抉れた穴から、もう一体の巨人が姿を現した。
巨人が巨人を攻撃したのだ。


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