大好きをあなたに
とことこ、とたたた。
まだまだ忍者らしからぬ足音、それでも日々成長している11対の足音。
職員室でゆっくりお茶を啜っていた伝蔵は、耳に届いたそれについつい顔を綻ばせた。
今日はまたいったいどんなことを思いついて、何をしに来たのやら。
そう思って、彼は無意識に上がってしまう口角を無理矢理引き下げた。
「やまだせんせー!!」
まさに元気いっぱい、大きな声で職員室の入り口から声を掛けてきたのは、1年は組学級委員長の黒木庄左ヱ門。どこかいつもより機嫌のいい彼の後ろには、同じく1年は組の面々が手を後ろに回してにこにこと笑っている。
「なんだなんだ、今日も騒々しいな」
顔だけをくるりと向けて、伝蔵はいかにも迷惑そうな声を出す。しかし、それが単なる照れ隠しだと知っている11人のよい子たちは、近くの友人たちと顔を見合わせて、にんまり。
「山田先生に、お渡ししたいものがあります!!」
「渡したいもの?」
てっきり遊びにでも誘われると思っていた伝蔵は、庄左ヱ門の口から洩れた言葉に首を傾げ、とことことよい子たちの前へと向かった。
「庄左ヱ門からか?」
「いいえ、ぼくたち一年は組と、土井先生からです!!」
「半助も?いったい何だ…?」
まだまだ小さい、きらきらと輝く笑顔を見降ろし、今日はなんかあったか?と不思議そうにしている伝蔵の腹の前あたりに、突然ぽすぽすと突き出された小さな手。
「こ、れは…」
泥んこだらけの小さな手に、大切に大切に掴まれた色とりどりの花、花、花。
併せて向けられた笑顔はとても幸せそうなもので、伝蔵は思わず言葉に詰まる。
「土井先生が、感謝はいつ伝えてもいいって今日の授業で教えてくれたので」
「「「「「山田先生、ありがとう!!」」」」」
庄左ヱ門の言葉に続き、職員室に響いたよい子たちの“ありがとう”。
そして、恥ずかしくなったのか、いくつか腹に飛びついてきたぬくもり。
予想もしなかった突然の贈り物に、伝蔵はぎゅうとよい子たちを抱き締めた。
「…お前たちの担任で、あたしは本当に、幸せだよ」
いつも厳しい三白眼に滲んでしまった涙を見られないようにこっそりと拭い、伝蔵は可愛い可愛い教え子たちの頭を代わる代わる撫でてやった。
その後暫くして職員室にやってきた半助。
団子のような状態になっている教え子と伝蔵を見て驚いたものの、1年は組の皆で作ったというちょっといびつな名前入り湯呑を渡され、半助と伝蔵の涙腺は決壊してしまったようだ。
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山田先生の声優、大塚周夫さん追悼として。
ご冥福を心よりお祈りいたします
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