笑って
5年ろ組に在籍する、有名コンビの片割れ、不破雷蔵くん。
雰囲気も、笑顔も、その髪さえも名前の通りふわふわした、優しい人。
後輩からも慕われてて、誰にでも優しくて、当然、私みたいな鈍臭いやつにも優しくしてくれて。
暖かな陽だまりのような彼に心を奪われるまで、そう時間は掛からなかった。
片思いを続けて早三月。毎日見つめるだけで、何の進展も望まなかったのに、神様は突然私に試練を与えてきました。
「…大丈夫?」
そう言って、ぽかりと開いた穴から私を覗き込んでいる不破雷蔵くん。
私はいつものようにぼんやり歩いていて、いつものように不注意で、いつものように落とし穴に落ちた。うん、そう。
しかしいつもと違う。それは不破くんがその現場に居合わせたということ。
呆けたようにひたすら上を向いて彼の顔を見続けていると、彼はくすりと小さく笑って穴に飛び込んできて、あっという間に私を抱き上げ地上へと出た。
「大丈夫?」
もう一度同じように私に問いかける不破くんの声に、反応が返せない私。
ぼけーっと、彼の顔を見て、数十秒後。
やっと状況が飲み込めて、それと同時に頭が動き出す。
私は恥ずかしさのあまり真っ赤になり、ガバッと立ち上がり頭を下げて彼にお礼を言った。
「あっあっあり、ありがとう、ございました!!」
そんな私の様子にキョトンとした顔をしたが、怪我がなくてよかったね、と彼は優しく言ってくれました。
「僕は5年ろ組の不破雷蔵。君はくノ一の5年生だよね?合同授業で何度か話したことあるけど、僕のこと覚えてるかなぁ?」
「はいっ、あっ、あのっ、私、岩倉紅葉と言います!!」
「そっか、よかった。紅葉ちゃん、またね」
爽やかにそう笑って去っていく不破くんを、私はポーッとした顔で見つめる。やっぱりかっこいい。そして優しい。更に爽やかだ。
それからと言うもの、私は何かに後押しされるように、不破くんを見かけたら積極的に声を掛けるようにした。
最初は何故か訝しげにしていた不破くんも、私がめげずに何度も声を掛け、今では普通に会ったら会話をするところまで漕ぎ着けた。
「あ、不破くん」
廊下で見かけたふわふわに、私はそう声を掛けた。
しかし、いつもなら優しく笑ってくれる不破くんは、とてもだるそうに振り返った。
その時点で、私はやってしまったと逃げ出したくなる。
「残念、私は雷蔵じゃないよ」
これは大変失礼いたしましたと、さっさと謝罪して逃げてしまおうと思いぺこりと頭を下げ、くるりと踵を返す。
「っわぁ!!」
「おや、雷蔵。いたのか」
方向転換した私の目の前に、笑顔の不破くんが立っていた。
いたのだが、私と鉢屋くんの口元が同じように引き攣る。
「ふ、不破くん?」
「ら、雷蔵さん?」
ニコニコ、と擬音が聞こえそうなほど優しそうに笑う不破くんなのに、おかしいな。
どこかしら禍々しい空気のような気がする。
「紅葉ちゃん」
突然禍々しい笑顔のままの不破くんが私の名前を呼んだので、私はびくりと肩を揺らして返事をした。声が裏返った。
「今日、図書室に新しい本が入荷されるから、おいで」
にこっと、とどめに笑顔を向けられて、いつもとは違う誘い方をする不破くんに違和感を感じつつも、私は大人しく頷くしかできなかった。
それに返すように頷いた不破くんは、何かをぼそぼそと呟いたと思ったら、震える鉢屋くんを引き摺って廊下の奥へと消えてしまった。
なんだかいつもとは違う不破くんを思い出して、私は震える声でぽつりと呟く。
目が笑ってなかった
(三郎、しばらく僕に変装して紅葉ちゃんに近付くの禁止ね)
(何ぃぃぃ!!雷蔵!!私は雷蔵のためを思って色々と)
(え?)
(何でもないです!!従います!!)
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主人公→←雷蔵と、それを面白がってくっつけるついでに色々からかってやろうと思って、ちょっかいをかけていた…ことが不破氏にバレてシバかれる鉢屋氏
お題:確かに恋だった
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