君が好き過ぎて死にそう。

(名も無きif)



ざく、ざくざく、ざく。
ざく、ざく、ざくざく。
愛用の踏鋤が少しだけ湿っぽい土を掻き分けていく。広がる土の臭いに、心が躍る。
少し前まで、僕の世界は穴の中だけだった。
土の匂いが、僕の癒しだった。

「綾ちゃん、みーつけた」

ふと頭上から声が聞こえて、僕は手を止める。上を見上げると、まあるく切り取られた空の真ん中に、愛しい愛しい恋仲の少女が見えた。
不思議な目を持つ少女は、ふわふわの髪を揺らしてまるで陽だまりのような笑顔で僕に笑いかける。
僕はそれが嬉しくて嬉しくて、愛用の踏鋤をがつりと穴の底に突き立てて、少女に向かって手を広げた。

「おやまあ、見つかっちゃった。おいで」

緩む頬をそのままに、囁くように少女を誘う。
すると少女は、誰もが嫌がる穴の中に、ぴょんと笑顔で飛び込んでくるのだ。
怪我をしないようにしっかりと少女を受け止め、そのまま抱き締める。そっと頬ずりをすると、僕の頬についていた土がじゃりりと擦れる感じがした。

「おや、ごめん」

痛かったかなと思い、そう謝って顔を離そうとすると、少女はにこにこと笑って嬉しそうにくっついてきた。

「平気だよ。綾ちゃんが好きな土、私も好きだから」

その言葉に胸がきゅんとして、僕は小さな少女の体を抱き締める。
少し前まで僕の世界だった穴の中、癒しだった土の匂いは、いつの間にか少女との世界に変わり、土に混じった彼女の匂いが僕の癒しになった。
まるで世界から切り離されたみたいに静かな穴の中で、僕たちは抱き合う。
胸から今にも溢れ出しそうな彼女への想いは、毎日毎日僕の胸をきゅんきゅんと高鳴らせる。

「僕の心臓が動きすぎで止まっちゃったら、君の所為だからね」

そう呟いて、腕の中できょとんとしている少女に、そっと口付けた。
途端に真っ赤っかになる少女に、僕の心臓、いつまで持つかなぁ?



〜20140831 拍手御礼

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