熱中症





じわじわじわ、とセミがひっきりなしに鳴いている。
どこまでも真っ青な空に、大きな白い入道雲、そして、ぎらぎらと容赦無く照りつける、眩しい太陽。

「あー、っちー…」

そう呟いてみても、暑さが紛れるわけでなく。
私はでれりと縁側で横たわった。
そこに偶然通りかかったのは、明らかに暇を持て余していそうな暴君、七松先輩。

「( ゚д゚)」

「………Σ(゚д゚lll)」

「(=゚ω゚)ノ」

「………(見なかったことにしよう)」

「o( ゜Д゜)_‐=o)`Д゜)・; 」

「ぐぼぁ!?いっ、いきなり何するんですか!?」

「あ?」

「おおおおはおはオハヨウゴザイマス七松先輩!!いででで顎が顎が割れる!!」

「おはよう!!全く、挨拶は後輩からが基本だろ?(体育会系理論)社会に出るとそういう繋がりが後々大事になってくるんだからな!!」

「肝に命じておきます…」

「で、暇そうに何してたんだ?」

そう言って首を傾げた七松先輩は、私の隣にどかと豪快に腰を下ろした。私は七松先輩のクソ力で掴まれた顎をさすりながらも、素直に太陽を指差した。

「夏の太陽を見てました」

「ふーん…嫌いなのか?」

「え?いえ、好きですよ?」

「そうなのか?いつも暑いとかバカヤローとか叫んでるのに?」

「あー、まぁ、確かに毎日暑くて腹立つ時も多いですけど、でもやっぱり嫌いになんてなれませんよ。何があっても絶対」

照れ笑いを零しながらそう告げると、七松先輩はまた大して興味なさげにふぅんと呟いた。

「………私なぁ、」

「はい?」

「よく太陽みたいだなと比喩されるんだが」

「あ、そういやそうですね」

確かに、彼と仲の良い6年生の先輩たちや体育委員会の面々がそう例えているのを何度か聞いたことがある。
知っていますよと、くるりと七松先輩の方を向いたら、意外と近くに顔があって驚いた。
慌てて距離を取ろうとしたら、何故か七松先輩にがしりと後頭部をおさえつけられ、身動きが取れなくなる。
頭突きでもされるのかと警戒しつつも離れようとジタバタもがいていると、七松先輩は太陽に背を向けて影が濃くなったその顔に、とても楽しそうな、でもちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべた。

「……それでも、好きか?」

「な、な、ななな…何、が、ですか…?」

「【太陽】が」

鼻先がくっつきそうなくらいに近付いた顔。
まるで本物の太陽に間近からジリジリ焦がされているようなその感覚に、目眩すら感じる。
そして、明らかに別の意味を含んでいる【太陽】という言葉に、私は夏の暑さとは別のもので頬を真っ赤に染めながらも、微かに頷いたのだ。


熱中症に注意

〜20140731 暴君フェス拍手

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