朝顔

以前起こった夏休みの宿題福袋事件で、朝顔を育てることに喜び(?)を見出したらしい中在家長次先輩。
忍術学園の裏庭は、そんな中在家先輩が愛情込めて育てた朝顔で綺麗に彩られている。
通りかかった先生や生徒が、夏の風物詩として眺めて行くことも少なくない。
そんな綺麗な朝顔…は、今私の目の前で無残な姿へと変わった。

「ど、とうしよう…!!」

ガクガクと震える暴君こと七松小平太先輩。顔面蒼白で狼狽えるその姿はとても珍しいが、正直それどころじゃない。

「…七松先輩、それ死亡フラグ…」

ぼそりと呟くと、くりくりした目に涙をたたえて振り返った。
助けを求めているのか、七松先輩は私の紫色の忍装束の袖をちみっと摘まんでプルプル震えながら縋るように見つめている。
だがしかし、自分よりも図体のでかい男にそんなことされたって可愛くもなんともねーよw

「七松先輩、早めに謝った方がいいですよ。じゃ、私はこれで」

「そっ、怖い!!長次絶対笑う!!お願い一緒に謝ってくれ!!!」

「断固拒否します!!!大体私無関係!!!ここに立って朝顔眺めてたらバレーボールぶっ飛んできたんすよ!!?隕石かと思いましたわ!!!どーせまた無茶苦茶したんでしょ!!?自業自得です!!!一度こっぴどく中在家先輩に叱られて来て下さい!!!」

一息でそう怒鳴ると、七松先輩はイヤイヤと首を振った。

「いやだぁ!!怖い!!頼むから着いてこい!!!断るなら無理にでも連れて行く!!!」

「横暴!!!」

頼まれているはずなのにグイグイと私の腕を引っ張る七松先輩の力の強いこと強いこと。
それでも断固拒否の姿勢を貫いていると、背後でじゃりと土を踏みしめる音がした。

「あ、中在家先輩…」

「Σギャー!!!長次ごめんなさい!!!」

振り向くと、そこには仏頂面の中在家先輩が立っていた。
半泣きでとっさに謝る七松先輩だったが、私を楯のようにして背後に隠れている。絶対はみ出てるけど。
そんなこと思っていたら、小さな呟きが耳に飛び込んだ。

「……小、平太…」

悲しそうな、それでいて静かな怒りを孕んだ中在家先輩の声で、七松先輩は大袈裟なほどびくりと震え上がる。

「わざとじゃないんだ!!これは事故で、その、あの、ごめんなさい!!」

「……朝顔だって、生きている…」

「ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「………フェ、ヘッヘ…」

謝罪を繰り返す七松先輩と、不気味に笑い出す中在家先輩。その間に挟まれる私。何このシュールな状況。
つーかさっきから七松先輩の指がギリギリと肩に食い込んでていてぇ!!
なるべくお二人を刺激しないように、痛みを顔に出さず堪えていたら、不気味な笑顔を引っ込めた中在家先輩がもそもそと口を動かした。
でも何言ったかはわからなかった。
しかし、七松先輩にはしっかりと聞こえたようで、みるみる悲壮な顔になる。

「そ、そんな…!!」

がっくりと項垂れてしまった七松先輩と、くるりと踵を返して去って行く中在家先輩を交互に見つめながら、私はまるで飼い主とやんちゃくそな犬みたいだなと思った。

(七松先輩、何て言われたんですか?)

(…長次が三日間、遊んでくれないって…あとちゃんと片付けとけって…)

(…(m9(^Д^)プギャーなんてやったら殺されるだろうなぁ…)ドンマイっす…)




〜20140731 暴君フェス拍手

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