恐怖体験
いっそ清々しいほどに真っ赤に染まった空にひぐらしの声が響く夕暮れ時。
「帰りたい…!!」
涙まじりの呟きは、悲しいかなぎしりという床が軋む音にかき消された。
「ははは、そう言うな!!忍務だから仕方ないだろう?」
前を歩く七松先輩が豪快に笑いながら、歪んで重くなった扉をガンと蹴り飛ばした。
何故こんなことになっているかと言いますと、学園長先生からお使い?を命じられまして。
それが学園からほど近い場所にある無人のお寺に山賊が住み着いてて迷惑してるから何とかしてきなさい、というね、もうね、そんなん6年生に任せろや!っていうね。
「廃寺ってだけでも怖いのに、なんで実力もあれな私が山賊退治なんて…七松先輩1人で十分だろーに…それか武闘派とか生き字引とか…なんで私?なんで私?」
「ブツブツうるさいなー、お!!あれみろ!!」
「うるさくもなりますよってフギャー!!!?」
七松先輩につられて、ボヤきながらも視線を向けると、そこにはなんと白骨死体。廃寺に白骨死体とかベタ過ぎて逆にビビるわ!!
「ははは、猫みたいな悲鳴だな!!お、あっちにもなんかある!!」
楽しそうに薄暗い廃寺を探検する七松先輩。それにひきかえ私はもう腰抜けそう。本当帰りたい。
メソメソとしていたら置いてくぞー、なんて言われて、慌てて七松先輩の後を追う。こんなとこで置いてかれたらちびる自信ある!!
「おお、白骨死体の山だ!!」
「Σイギャー!!!」
無邪気な笑顔で宣う七松先輩。ごろごろと無造作に転がっている頭蓋骨のひとつを持ち上げて、ほらほら、と見せてくる。見たくないですよー。
その時、背後からかたりと小さな音がした。
「?!!」
その音に過敏に反応した私は、音源らしき壁を睨む。
…嘘です、半泣きで視線を向けたらそらせなくなっただけです。
同じように壁を見つめる七松先輩。
すると、突然せーの、とか言って、七松先輩は持っていた頭蓋骨をバレーボールさながら放り投げ、お得意のアタックを繰り出した。
あまりのことに茫然とする私の目の前で、頭蓋骨は壁をぶち抜きばぁんと砕け散った。
………え、この人何やってんの?罰当たりにもほどがあるでしょうよ?
「物音したのに誰もいないな?」
ゆっくりと振り向くと、キョトンと可愛らしく瞬きしている七松先輩。
「ネズミかなんかかな?」
そうひとりで呟いて、納得したらしい七松先輩はスタスタとまた先に進んでいく。
そんな背中を見つめる私。
もう恐怖心なんて何処かに行ってしまった。
「……あー、なるほど…」
そして、遠い目をして頷く。
「触れないおばけより、実在しやがる七松先輩の方が圧倒的に恐ろしいわ」
結局その廃寺には山賊なんていなかった。くそっ!!!
〜20140731 暴君フェス拍手
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