ときめき食満留三郎




わしわしと、大きな掌が私の髪をぐちゃぐちゃに掻き回す。

「ちょ、食満先輩!!やめて!!」

「はははは!!すげー!!頭ぐしゃぐしゃ!!」

私より二つ上の食満先輩は、私の非難の声にも動じず楽しそうに笑い手を止めない。

「もー!!もーもー!!」

「ははは、牛みたいだな!!」

楽しそうな食満先輩を必死に睨みつけ、その大きな掌を懸命に振りほどく。すっかりぐちゃぐちゃになってしまった私の髪の毛は、元の癖もあり酷くくるんくるんになってしまっていた。

「笑いごっちゃないですよ!!癖毛は大変なんスからね!!」

「へー、俺まっすぐだからわからねー悩みだな」

黙っていれば威圧感たっぷりの鋭い目を楽しそうに歪ませて、食満先輩はけろりとそう言い放った。
この先輩、何が楽しいのか私を見つけるといつでも笑いながらやってきて、毎回毎回私の癖毛をぐちゃぐちゃにしていく厄介な愉快犯。
散々反論したり抵抗したりしても、最終的には…まぁ敵う訳がない。

「食満先輩もちりちりになればいいんすよ!!今度立花先輩に頼んでおきますからね!!」

悔し紛れにそう吐き捨てたら、突然食満先輩の手がピタリと動きを止めた。

「…へぇ」

「…な、なんスか…」

先輩から発せられた声が想像以上に低く、私は思わずびくりと肩を揺らして上目遣いに先輩を見上げた。
そこには何故か急に真剣味を帯びた先輩の鋭い瞳があり、その圧倒的な威圧感にこくりと喉が鳴った。

「(…怒ら、せた?)」

普段暑苦しいほど熱血している食満先輩の、背筋が凍りそうなほどの冷ややかな視線に固まっていると、隙あり、という小さな小さな呟きとともに再度私の髪の毛はぐちゃぐちゃにされた。

「あー!!もー!!何スかもー!!」

またもや突然変わった先輩の表情に、内心ホッと安堵の息が漏れた。

「怒らせたかも、とか思ったか?」

ニコニコと笑いながらそう言われ、私は心の中を悟られたのかとヒヤリとしたが、必死に取り繕って平然を装った。

「ぜぜ全然、そんな、ことないです!!」

が、口を吐いで出た言葉の動揺っぷりに頭を抱えたくなる。顰めっ面で覗き見た食満先輩は必死に笑いを堪えていて、尚更悔しくなった。

「ぶっ…お、お前って本当…」

「もっ、もー!!もー!!」

鍛えられた体を震わせて、ひくひくと笑う食満先輩に、私は怒り心頭。本日何度目かわからない『もー!!』という叫び声を上げるしか出来ない。
そんな私の頭に、食満先輩は懲りずに大きな掌を乗せる。
でも、それは珍しく私の頭をぐちゃぐちゃにはしなかった。

「そんな可愛い反応されると、益々イジめたくなるよ」

「かわっ…」

優しく、心地よく、まるで大切な物にでも触れるかのような撫で方と、ゆるりと柔らかな先輩の瞳、そして投げかけられた言葉に、私の思考回路は完全に停止した。

〜20140630 6年は組の日記念拍手

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