君が好きだ!!
私の名前は久々知紅葉。
ここ忍術学園5年い組の久々知兵助の、双子の妹です。
用具委員会に所属しています。豆腐は特別好きでも嫌いでもありません。
くのたま5年生ですが、制服は兵助と同じものを着用しています。
何故かって?それは以前、まだ私がくのたまの制服を着用していたときの忌まわしい事件が関係しています。
私と兵助は二卵性双生児ですが、顔立ちがそっくりです。鉢屋三郎が乱入すると混沌と化すほど似ています。
そうです。兵助は男にしては睫の長い綺麗な顔立ちをしていますが、男です。
それにそっくりな私もまた男顔。女なのにその顔は凛々しく、悲しいかな体格もいいのです。
『紅葉がくのたまの制服着てると、兵助が女装してるようにしか見えない』
同級生たちから言われるその言葉が、とても嫌でした。
私は確かに兵助と似ていますが、兵助ではないのです。
平気そうなふりをして笑いましたが、男顔だって実はとても気にしているのです。
どうして美貌だけ女風に変換されなかったのかと泣き明かしたこともありました。
でも、ある日あの人が悲しみに暮れる私に笑顔でこう言ってくれたのです。
「気にすることないですよ、紅葉先輩。紅葉先輩はとっても美しい女性です。それでも気になるなら、忍たまの制服着ちゃえばいいだけじゃないですか。ね?」
その一言で、私は救われました。
くのたまではなく忍たまの制服に身を包み、5年ろ組の名物コンビにも負けないほど(まあ実際本当に血の繋がった兄妹なので当然ですが)の、名物コンビにもなりました。
嫌だった『似てる』という言葉も、受け止められるようになりました。
本当に世界が変わったのです。
その日から、私はその人に大変良くしていただいてます。
先日勇気を振り絞って告白したら、驚いていたものの「僕なんかでいいんですか?」と笑ってくれたので、「私はあなたがいいのです」と正直な気持ちを告げ、見事恋仲になりました。頑張ってよかったです。
でもですね
「紅葉。今度の休みはどこへ出かけようか?」
「どこも出かけませんよ食満先輩。さっさと修理済ませてください」
「ははは、何恥ずかしがってるんだ。俺とお前の仲じゃないか」
「ただの委員会の先輩後輩ですよね。そういうの本当いいんで、早くしてください」
何を勘違いしてるのかこの用具委員会委員長、食満留三郎先輩。
そしていつもどこからかふらっとやって来る
「あ、紅葉先輩。奇遇ですね」
「本当に奇遇だな、次屋三之助。体育委員会の今日のマラソンは裏裏山の筈だが」
「いや、なんか皆迷子になっちゃったみたいで」
「迷子はお前だ。どうして裏裏山に向かって用具倉庫に辿り着く」
「愛の力ですかね?」
方向感覚も会話も勘違いも色々迷子の3年生、次屋三之助。
この二人が面倒なことに、厄介なことに、私を好いているらしいです。
「紅葉先輩、今度の休みの逢引どうしますか?」
「おいおい、次屋。聞き捨てならんな」
そして、食満先輩と次屋が顔を突き合わせると、本当に碌でもない言い合いが始まるのです。
ギャーギャーと言い合う二人に私は溜息をついて、あの人に思いを馳せる。
今日はお使いがあると町へ行ったから、委員会をさっさと終わらせて、お迎えに行ってあげたかった。
そう思って、足元の小石をかつん、と蹴る。
「紅葉。お前は俺と恋仲なんだよな!?」
「違いますよね、俺と恋仲ですよね、紅葉先輩」
そう言ってずいっと詰め寄ってくる食満先輩と次屋に、私は冷たい視線で応じる。
「二人とも違います。寝言は寝て言ってください」
冷ややかな言葉を投げかけて、埒が明かないので富松たちのところへ避難しようと踵を返したところで、こっちに駆けて来る小さな影を見つけた。
「あ、いた!!紅葉せんぱーい!!」
てけてけと可愛らしい足音をさせて一生懸命走ってきた影は、何もないところで躓いた。
私は地面を蹴り、一気に距離をつめてそれを受け止める。
ぽすん、と私の胸に飛び込んできた彼は、えへへ、と恥ずかしそうに笑った。
「躓いちゃった。紅葉先輩ありがとうございます」
そんな素直な様子に、私は胸がきゅんとした。
「おかえりなさい、三治郎。お使いは無事に済みましたか?」
「はい、それでですね…」
彼 夢前三治郎は、抱きとめていた私から少し離れると、懐をごそごそとあさり、そこから生成色の布を取り出した。
「これ、お土産です」
そう笑って、それをしゃがんだままの私に差し出した。
「私に…お土産、ですか?」
「本当はもっと綺麗な簪とか買ってあげたかったんですけど、僕のお小遣いじゃ買えなくて…」
そうしゅんとする彼に私はぶんぶんと首を振る。
どうしよう、どうしよう…!!
「すごく、嬉しい…です、三治郎、ありがとう…!!」
満面の笑みで彼からの初めての贈り物を受け取って、早速髪を結う。
「どう、でしょうか?似合いますか?」
そう不安そうに聞くと、彼は素敵な笑顔で頷いてくれた。
「とっても素敵です。やっぱり紅葉先輩には優しい色が似合いますね」
しゃがんだままの私の髪に揺れる布をそっとひと撫でして、彼はふわりと笑う。
それが嬉しくて、私はたまらず彼をぎゅうっと抱き締めた。
「ありがとう三治郎、宝物にします!!ずっと大切にします!!毎日使います!!」
わぷわぷ言う彼をぎゅうぎゅうと抱き締めてそう言うと、ずーっと蚊帳の外だった食満先輩と次屋が信じられない、という目でこちらを見ていた。
「おい…紅葉、まさか…」
「紅葉先輩、その…」
ぶるぶると震える手で、二人は彼を指差す。
「あ、はい。夢前三治郎くんとはお付き合いをさせていただいてますが」
「「えええぇぇぇぇ!!?」」
そう叫んで倒れた食満先輩と次屋を一瞥し、私は富松たちに本日の委員会の終了を伝えるため、彼の手を引いて歩き出した。
「作兵衛、しんべヱ、平太、本日の委員会は終了だ」
「あれ、紅葉先輩。食満先輩はどうされたんですかィ?」
「食満先輩は討死された」
「はァ!!?」
しんべヱと兵太と一緒にはしゃぐ彼を見つめながら、私は富松にそう伝えた。
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お ま け ま (会話のみ)
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「紅葉先輩、食満先輩と次屋先輩と仲が良いってしんべヱから聞きました」
「そんなことないですよ、あの二人が勝手に寄ってくるだけです」
「それでも僕ちょっと心配で……浮気しちゃ、ダメですからね?」
「(きゅん)絶対しません!!私は三治郎一筋ですから!!」
「…えへへ」
「三治郎…っもう、可愛すぎです!!」
ぎゅー
「…なぁ、紅葉」
「兵助、…いつから居たのよ」
「今し方通りかかっただけだ。あんまり皆の前で三治郎とイチャイチャするなよ」
「なんで」
「俺が『お幸せに』って言われるから」
「「…あー……」」
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