ときめき七松小平太


(『その女、凶悪につき』夢主if)



ドドドド…と轟音を響かせながら、今日も有り余った体力を消費すべく運動場を走る。
その時たまたま視界に入ったのは、我が体育委員会に所属する4年生の平滝夜叉丸の姉であり、私の恋仲である少女だった。

「あ、おー…」

い、と声を掛けようとしたが、その声は急速に小さくなった。
よくよく見ると、彼女はとても綺麗な笑顔で誰かと話している。
彼女の影になって相手はわからないが、なんとなく腹の上辺りがグルグルしてきたので、私は声を掛けるのをやめてその場を走り去った。

しばらく走って、あっという間に学園の裏裏裏山に辿り着く。
もあもあとした不快な感覚は走っても走っても消えず、結局そのまま一緒に裏裏裏山までついて来てしまった。

「…なんだ、これ?」

小さな声でそう言って、わしわしと頭を掻く。
夕日に照らされた木の上に登り、丈夫そうな枝に腰掛け、先程の彼女の笑顔を思い出した。
一目で楽しそうだと感じた、あの綺麗な笑顔。

彼女は、いつもあんな顔で笑っていない。
私の知る彼女は、もっと呆れたような、そんな笑い方しかしない。

ひょっとして、彼女は私のことを…なんて珍しく悲観的な考えまで湧いてきて、私は勢い良く首を横に振った。

「うーん…わからん、聞いてみよう!!」

元々考えるより行動なので、私は枝から飛び降りて、忍術学園へ向かい走り出した。

学園の正門をくぐると、ちょうどそこを通りかかったのは彼女で、私は勢いそのままに彼女に飛び掛かった。

「ちょっと来い!!」

驚いて短い悲鳴をあげる彼女の細い腰を引っ掴み、私はそのまま忍たま長屋付近の池へと向かった。


「な、何なの!?」

「あのな、ここがもあもあして腹の上グルグルするのは何でだ?」

池の前で彼女を下ろしたら、甲高い声でキィキィと何か言われたが、私は今の自分の状態を告げてみた。
彼女は初めこそ額に青筋を立てて何かを言おうとして来たが、一度大きな溜息を吐いて私の額に手を当てた。

ひやりとする彼女の柔らかな掌が心地よくて目を閉じる。

「…熱は、ないみたいだけど…食あたりかしら?伊作のとこに行く?」

心配そうにそう問われたが、私は首を振る。
そして先程見た光景と、笑顔のことを彼女に聞いてみた。
すると彼女は目を見開き、次の瞬間には吹き出して大笑いを始めた。

「あっははは!!馬鹿ねぇ小平太、嫉妬したの?」

彼女から発せられたその言葉に、私はぽかんとしてしまった。

「嫉、妬…」

目尻に浮かんだ涙を拭い、未だはひはひと苦しそうに引き攣りながらも、彼女はそっと私の頭を撫でた。

「本当、お馬鹿ね。アレは作り笑顔よ」

「作り、笑顔?」

鸚鵡返しにそう呟くと、彼女はこくりと頷いて、先程のことを教えてくれた。

どうやら先生からの言伝を頼まれたらしい生徒が色々と詮索して来たので、作り笑顔で脅していたらしい。

「大体失礼なのよ、暴君暴君と…話したことも話す度胸もない癖に。ねぇ、貴方もそう思うでしょう?」

思い出したのかたいそう不機嫌にブツブツと呟き同意を求めて来た彼女に、安堵の息が漏れた。
よかった、そうか作り笑いか…そこまで考えて、私は腹の上を押さえた。

「…ぐるぐる、止まらん…」

ポツリと呟いたその言葉に、慌てた彼女が腹に手を添える。

「いやだ、大丈夫なの!?本当に変な物食べたりしてないでしょうね!?」

「うーん…変な物は…」

不安そうに私を見つめる彼女の瞳で、腹のぐるぐるは少し治まる。
ひょっとして、これは…
頭に浮かんだ一つの答えに私は納得し、狼狽える彼女の肩を掴んで抱き寄せ、囁いた。

「他のやつに笑うな、私、おかしくなる」

驚きつつも、その囁きにどこか嬉しそうに眉を下げて笑いながらも小さく頷いた彼女の細く白い首筋に、かぷり、と柔らかく噛み付いた。

〜20140630 6年ろ組の日記念拍手

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