ときめき立花仙蔵

「ぎゃっ」

ガチャガチャと盛大な音を立てて、私は運んでいた生首フィギュアごと階段から落ちた。

「いだだだ…」

そう唸りながらもなんとか体を起こした私の頭に、ごん、と一際大きな音でフィギュアがトドメとばかりに直撃する。

「あだっ」

意外と攻撃力のあるそれに、打ったところを押さえて痛みを堪えていると、背後からクスクスと控えめな笑い声が聞こえた。
嫌な予感がして恐る恐る振り返ると、そこには涼しげに笑う6年い組の超絶美形、立花仙蔵氏が優雅に立っていた。

「た、立花…先輩…」

「相変わらず随分ととろくさいことだな、5年にもなってそんなことで大丈夫か?」

嫌味たっぷりにそう笑われ、私はギリと奥歯を噛み締めた。

「ダイジョウブデスヨ」

「そうか」

そう言ってお綺麗な顔で微笑まれる立花先輩は、所謂優等生というやつで、私は内心この先輩が苦手。
なんでもそつなくこなして、天才肌で、完璧…非の打ち所がないこの人は、何故か鈍臭い私の鈍臭い場面に毎回現れては毎回嫌味を吐いていく。

「ほら、早く立て」

「…すみません」

そう言って私の腕を引き立ち上がらせる立花先輩の、まるで自身の優秀さを見せつけるようなその立ち振る舞いは、私の劣等感を刺激する以外の何物でもない。

「怪我は…あぁ、頭を打ってるな」

「あ、大丈夫です。フィギュアが当たっただけですから」

立ち上がった時に生まれた身長差で、ちょうど先程フィギュアが当たった頭頂部のたんこぶを見つけられて、そっと触れられる。
その手を失礼にならない程度にそっと払いのけ、私は散らばった不気味な生首フィギュアを拾い集めてさっさとその場を去ろうと試みた。

「あら…おろろ…」

しかし無情にも、生首フィギュアは一つ拾えば一つ落ち、なかなか私の腕に収まってくれない。
ひょい、ころり、と同じ動作を意図せず繰り返す私を見て、立花先輩はまたクスクスと笑い始めた。

「…笑わないでくださいよ」

「いやすまん、あまりにもな…」

その先に繋がるであろう『面白くて』という言葉を先輩から聞きたくなくて、私はフィギュアを拾うことだけに集中した。
すると狭まった視界に綺麗な手が映り込み、ひょいひょいとフィギュアを拾い集めていく。

「先輩…?」

「私は作法委員会委員長だからな」

それだけ言って、私が抱えていたはずのフィギュアすらも取り上げて、立花先輩は歩き出す。

「あ、い、いいです!!私が運びますから!!」

自由になった腕を立花先輩に伸ばして慌ててフィギュアを受け取ろうとするが、先輩は御構い無しに歩いて行ってしまう。

「立花先輩!!」

そう大声で呼び掛けると、先輩は歩みを止めて私を振り返った。

「また転ばれると困るからな」

「………」

嫌味な笑みをたたえた立花先輩のその一言に返す言葉もなく固まっていると、何故か先輩はくるりと踵を返して私のところに戻り、目線を合わせるように少し屈んで、にこりと微笑んだ。

「お前を見ていると、ほっておけなくなる」

唐突に発せられた予期せぬ言葉と、初めて見る優しい瞳に、一瞬思考が停止する。

「…は…!?」

そしてようやっと処理が終わり、ぶしゅう、と頭から湯気が出そうな勢いで頬を染めた私の額にちゅっと軽い音を立てて触れた『なにか』のせいでぶっ倒れた私。
霞みゆく視界の隅で、立花先輩は珍しく仄かに頬を染めて優しく笑っていた、ような気がする。


〜20140630 6年い組の日記念拍手

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