プレゼントは一輪の花

暖かな日差しがさす昼下がり。生物委員会委員長代理の竹谷八左ヱ門は虫取り網と虫かごを左手にひっつかみ、右手を茂みに突っ込んでがさがさと動かしていた。

「でてこーい、きみこー」

涙ながらにそう呼び掛けるが、勝手に散歩に出掛けた…もとい脱走した伊賀崎孫兵の可愛いペット、アオダイショウのきみこは茂みの奥の奥、八左ヱ門の手の届かない場所でのんびりととぐろを巻きお昼寝に勤しんでいた。

「参ったなぁ…今日は急いでんのに…きみこ、きみこぉぉぉおほー!!?」

しばらく名前を呼びながらがさがさと手を動かし続けていたが、突然感じた浮遊感に奇妙な鳴き声をあげて、八左ヱ門はその場から消えた。

「いっ、ててて…ん?」

強かに打ちつけた尻をさすりながら顔を上げると、ぽっかりと丸く切り取られた空が目に入る。
その端からちらりときみこが覗いていた。

「はは…驚かせてごめんな、きみこ」

八左ヱ門は申し訳なさそうに笑い、おそらく忍術学園の穴掘り小僧、綾部喜八郎が掘ったであろう落とし穴からひょいと上がって、すっかり目が覚めてしまったとどことなく不機嫌そうに鎌首をもたげているきみこの頭を撫でてやった。
するときみこは八左ヱ門の手をするすると登り、彼の首に巻き付いて、その小さな頭をがっしりした肩に預けて落ち着いた。

八左ヱ門はそれを穏やかに見守り、飼育小屋の前で半泣きで待っているであろう孫兵の元へと踵を返す。

「ん…?」

その時目に飛び込んできたものに、彼は瞳を輝かせた。




「あ、ハチ!!きみこ見つかったの?」

飼育小屋の前で案の定半泣きの孫兵をなだめるように寄り添った恋仲を見つけ、八左ヱ門は先程見つけたあるものを後ろ手に隠して、孫兵に手を伸ばし、きみこを渡してやった。

「き、きみこぉぉ!!竹谷先輩、ありがとうございますぅ!!」

「いーからいーから、もう泣くなって」

「よかったね、孫兵」

きみこを連れて嬉しそうに去って行く孫兵を見送ってから、八左ヱ門は後ろ手に隠していたものを彼女の目の前に差し出した。

「あの、ごめんな…折角の誕生日に…」

俯きがちに頬を掻く八左ヱ門の手に握られた、一輪の可愛らしい花。
ふわりと目の前で揺れるその桃色に、パチクリと目を瞬かせていたが、彼女は大切そうに両手で受け取り、とても嬉しそうに笑った。

「嬉しい!!ありがと、ハチ!!」

そんな満面の笑みの彼女に、八左ヱ門もまた太陽のように笑った。

誕生日、おめでとう!!

〜20140424拍手御礼

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