必殺仕掛人
私は生まれて初めて、我を忘れるという状況に陥りました。
それもこれもすべてアイツが悪いのです。
4年い組の【穴掘り小僧】綾部喜八郎が。
「おやまあ」
そんな軽い言葉が、私の頭上に降ってきた。
「…おやまあ、じゃないわよ」
そう。私は見事に落とし穴に嵌っている。
まあるく切り取られた青い空の中に、無表情のきれいな顔。
「なんで毎回毎回私の通り道に掘るのよ!!やめてよホント迷惑なんだから!!おちおち歩いてられないじゃない!!」
一呼吸でそう怒鳴っても、喜八郎はどこかぽかーんとしていて、聞いてるんだか聞いていないんだかよくわからない。
まあ、私の発言から察していただけると思いますが、こいつは私の歩く先々に落とし穴を掘っていまして、しかもタチの悪いことに目印がないのですよ。そりゃどんなに注意してたって落ちますよ。
「落とし穴じゃないよ、蛸壷のター「どっちでもいいよ!!」コちゃん68号だよ」
心の中を読まれた揚句、食い気味に発言しても動じないこの態度。
こうなったら1、2発どついてやらないと気が済まない!!
そう思った私が奴を睨みつけようと顔をあげると、初めて見る顔がありました。
勿論綾部喜八郎なんですけど、その顔はなんとも嬉しそうな満面の笑み。
あまりの意外な光景に、私は間抜けなことにそのまま固まってしまいました。
「ねえねえ」
そんな私をよそに、彼は見蕩れるほどの笑顔でこう言ったのです。
「どうして、僕には君の通る道がわかるのでしょーか」
「どうして僕は、君の行く先々にわざわざ先回りして罠を仕掛けるのでしょーか」
「どうして君が罠にかかると、間髪入れず僕が見に来るのでしょーか」
次々に落とされる疑問に、私は頭がぐるぐるしてきました。
どうして?どうしてって私のこと嫌いだから?でもそうしたら行き先なんて興味をもたないよね?あれでもそれってずっと私のこと監視してるってこと?だから罠にかかったらすぐに見に来るってこと?
ぐるぐるの先に、一つの、でもあり得ない可能性が浮かんできて、呆然とする私に、笑顔の奴が続けます。
「それはね…」
「僕が君のこと、好きだからだよ」
私の頭に浮かんだあり得ない可能性がまさかの正解で、驚きと共に心拍数が急速に上がりました。
「ねえねえ」
(僕の気持ち、届きましたか?)
(『ねえねえ』じゃないわよ…)
さてさて、落ちたのは、私か、君か
〜20140401拍手御礼
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