幼女最強伝

ぽかぽか陽気の休日に、私、時友三葉は七松小平太先輩、立花仙蔵先輩、善法寺伊作先輩、久々知兵助先輩と、同級生の綾部喜八郎くんと、あと医務室に遊びに来てたざっとこなもんさんに誘われて、一緒に町へやってきました。
本当は潮江文次郎先輩と食満留三郎先輩も一緒に行くはずだったんだけど、出かけに吉野先生に首根っこを掴まれてどっかに連れて行かれちゃったの。吉野先生笑ってたけどこめかみピクピクしてたから、また2人で喧嘩して、そのはずみで何か壊しちゃったのかなぁ?
仙蔵先輩と綾ちゃんに挟まれて手を繋ぎながら、お2人にお土産買って帰ろうと決めた私は、兵助先輩が同室の尾浜勘右衛門先輩に教えてもらったっていう新しい甘味処を探す。

「こら三葉、真っ直ぐ前を見て歩きなさい」

「おやまあ、手を繋いでるから大丈夫ですよ立花先輩。ねぇ、三葉?」

あまりにもきょろきょろとしてしまったから仙蔵先輩に窘められちゃったけど、優しい綾ちゃんがすぐに庇ってくれる。
いつだって優しい2人に笑顔を返した私は、フンフンと鼻歌交じりに一歩を踏み出し、大きな手を離してこなもんさんに駆け寄る。

「三葉ちゃん、上機嫌だねぇ?」

「えへへー、こなもんさんとお出掛けできるなんて思ってもいなかったので、とっても楽しいですよぅ」

「ねえ今天使がすごい可愛いこと言ったんだけど伊作くんも聞いた?」

「えっちょっと待って雑渡さんなんで僕に苦無突きつけるんですか!?」

道の真ん中で騒ぎ始めてしまった2人に慌てふためいて、危ないですよと窘めようとした時、そっと腕を引かれて私の体がよろめく。ポス、と倒れこんだ先には長い睫の兵助先輩。

「三葉、ホラ、新しい甘味処が見えてきたのだ」

サッと指が示した先を反射的に見てしまった私は、次の瞬間にはもう甘味のことで頭がいっぱいになってしまう。

「ふぁぁぁぁ…!!大きいお店なんですねぇ!!」

ここら界隈ではなかなか見かけない大きな店舗に、ついつい興奮してしまう。その所為で赤くなってしまった頬を、小平太先輩がぷにとつついて笑った。

「三葉、行くぞ!!」

「はいっ!!」

がっしりとした小平太先輩の手を取って、私は駆け出す。優しく目を細めた仙蔵先輩が綾ちゃんの背を押してその後に続き、こなもんさんと兵助先輩も歩を早める。そして最後尾を慌てて走ってきた伊作先輩。
急かそうと思って振り返った私は、伊作先輩の背後に妙な影を見て、あっと声を上げた。
気をつけてと言おうとしたのだけれど、それよりも早く伊作先輩の体がぐらりと傾いて、道の反対側を歩いていた大きな体にぶつかる。
途端、ぴくっと眉を動かして立ち止まった小平太先輩。
すいませんと謝って立ち上がった伊作先輩が踏み出そうとした瞬間、先輩の肩に大きな手が掛けられて、綾ちゃんが短く舌打ちをした。

「オイオイにーちゃんよぉ、人にぶつかっといてどこ行くんだよぉ」

その場に漂い始めたのは、殺気に程近い怒り。それに触発されたのか、仙蔵先輩と兵助先輩の纏う空気が禍々しくなる。
けど伊作先輩はやっぱり今日も平和主義で、ぶつかってしまった相手に深々と頭を下げた。

「申し訳ございませんでした、どこかお怪我をされたのなら手当てしますので…」

そんな優しい先輩が、どん、と突き飛ばされて尻餅をついた。
きょとんとしている伊作先輩の後ろで、仙蔵先輩が柳眉を吊り上げる。こなもんさんも、不愉快そうに目を細めた。
しかしぶつかられた人は気付かずに、突き飛ばした伊作先輩の前にしゃがみ込んで右手の親指と人差し指で輪っかを作り、にやりと笑った。

「手当てはいらねえ。その代わり信用できる医者んとこ行くからよ、コレ出せや」

「おや、いい歳した大人が子供にカツアゲ?」

「ンだとゴルァ!!?」

突然の要求に驚いて口篭ってしまった伊作先輩の代わりに、こなもんさんが薄ら笑いを浮かべながら笑う。それが癪に障ったのか、ぶつかられた人は物凄い剣幕で怒鳴った。
その声で、ざわざわと人が集まってきた。その中から飛び出してきた数人が、ぶつかられた人に駆け寄って喚き出す。

「おい、アニキになにしてくれてんだゴルァ!!」

「人数多いからって調子乗ってんじゃねぇぞゴルァ!!」

あっという間に騒がしくなってしまった道端でがなりたてる人たちに、仙蔵先輩はもとより兵助先輩や綾ちゃんまでもが不快そうに顔を顰めて一歩前に出た。
普通の人よりも強い先輩方や綾ちゃんに加えて、プロの忍者…しかも実力者と名高いこなもんさんまでもがぴりぴりとした空気を纏って、まさに一触即発。
どうしようかと戸惑っていた私だけど、ふいと手を離されて隣に立っていた人物を見上げる。

「やるなら相手になるぞ」

まるで獣の唸り声のような低い声で呟いた小平太先輩が、ボキボキと指を鳴らした。
さすがにこのままでは死人が出てしまうと焦って、止めようと手を伸ばしたんだけれど、それよりもちょびっとだけ早く、私のおなかがぐぅ、と空腹を訴えた。
そうだった、今はこんなことをしてる場合じゃない。大きなお店でも、人気だったらお客さんが詰め掛けて、あんみつもお団子も売り切れちゃう!!
咄嗟にそう考えた私の口が、勝手に動いた。

「小平太先輩!!」

予想もしなかった大きな声に自分でも驚いたけれど、それよりも驚いた顔で目をまん丸にしたのは小平太先輩。

「仙蔵先輩も兵助先輩も綾ちゃんもこなもんさんも!!今日は私とお出掛けの約束です!!行きますよ!!」

立ちすくむ小平太先輩の脇をすり抜けて、尻餅をついたままの伊作先輩の手を取って懸命に立ち上がらせる。私の意図を汲んで立ち上がってくれた伊作先輩がぽかんとしているので、私は先輩の代わりにあんぐりと口を開けているぶつかった人にぺこりと頭を下げた。

「伊作先輩がぶつかってごめんなさい。用事があるので失礼します」

そう言って、やっぱりぽかんとしている綾ちゃんたちの背中を押して、私は甘味処目指して急いだ。
ぶつかられた人たちは呆然と私たちを見送りながら、

「な、何だあの幼女…」

「あいつら従えてんのか…?」

と、呟いていたらしいけれどそれどころじゃないです。あんみつ!!

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