五日目
丑の刻頃に学園に着いた私たち。話は翌日の放課後改めて食堂ですることにして、それぞれ自室に戻り、就寝した。
少しだけ眠い中授業を終え、綾ちゃんと一緒に食堂に行くと、既に皆揃っていた。
真ん中の机に伊作先輩、留三郎先輩、私、綾ちゃん、鉢屋先輩。
向かい側に、小平太先輩、三ちゃん、しろちゃん、中在家先輩、不破先輩。
その隣の机に、潮江先輩と仙蔵先輩が座っている。
「じゃ、昨日あった事を報告しようか」
伊作先輩がそう言うと、小平太先輩が元気にハイハイと手を上げた。
「昨日はあれからずっと長次と四郎兵衛といた!!なんにもなかった!!」
小平太先輩の言葉に、しろちゃんと中在家先輩が頷く。
「僕は委員会で図書室にずっといましたが、特には何も」
「僕も生物委員会でしたが、毒虫が逃げた以外は何もなかったです」
「作法委員、保健委員共に異常無し」
不破先輩、三ちゃん、仙蔵先輩がそう言って、私はホッと息を吐く。
どうやら妙なことになったのは私たちだけで、学園は何も無かったようだ。
「僕たちは卜占村を調べましたが、近くに小さな集落を発見した以外は特に何もなかったでーす」
綾ちゃんの言葉に、留三郎先輩と鉢屋先輩が頷いた。
「そうなんだ…僕たちは、卜占村の最奥の家で得体の知れないモノに追いかけられたよ…あれは本当に怖かったよねぇ、三葉ちゃん」
「はい、ちょー驚きましたぁ。でも、本に新しい文字が浮かんだので、次の目的はそこじゃないかなぁと思います」
私はそう言うと、伊作先輩、中在家先輩以外の人に仙蔵先輩たちの居る机へ移動してもらい、祟られたくなければ絶対覗かないでくださいね、と釘を刺して本を開いた。
「以前ここにはこの黒い墨の文字以外何も書いてありませんでしたが、昨日あの家でここのところに「【シャグマアミガサタケ城】、と書いてあるな」ほぁ!?」
背後から急に声がして、驚いて振り返ると、そこには潮江先輩の顔があった。
「ももも文次郎!!覗いたら祟られるって三葉ちゃんが言ったじゃないかぁ!!」
「正確には祟られたくなければ覗くな、と言ったんだがな」
そういうことじゃなくてもーもーもー!!と牛の様に怒る伊作先輩の隣に、潮江先輩はどかりと座り込んだ。
「というか文次郎も、ここにあるっていう文字読めるの?」
「なんだ、伊作は読めんのか?1年からやり直したらどうだ?」
「言い方が悪かったね、ここの【助けて】以外に文字が見えるの?」
「ああ、この茶色に変色した【血文字】だろう」
私と同じ文字が見えている潮江先輩に、私は目をぱちくりさせた。
「潮江先輩、視えるのですかぁ…祓えるだけだと思ってましたぁ」
「ん?ああ、会計室の算盤小僧の件か」
私はパタンと本を閉じ、潮江先輩の不敵に笑う顔をじっと見た。
これは心強い。仙蔵先輩は寄せ付けないけど視えないし、視えるのは私を除いたら下級生だけだと思っていたから。でも潮江先輩が視えて、更に祓えるのだとすると、学園は余程のことが無い限り大丈夫だろう。よかった。
安心してほにゃっと笑うと、何故かまた留三郎先輩がもにゃもにゃ言って仙蔵先輩に殴られていた。
「それで中在家先輩、【シャグマアミガサタケ城】について何か知りませんか?」
本を閉じたので離れていた皆を呼び戻し、沈黙の生き字引といわれる中在家先輩に聞いてみた。
「…何年か前…何かで…見た気がする…」
「あ、中在家先輩…その城、卜占村の…」
そう言ってはっと顔を見合わせる中在家先輩と不破先輩。
「そうだ、三葉ちゃん!!シャグマアミガサタケは卜占村の近くにあった城で、卜占村が廃村になった戦で落城したところだよ!!」
「…たしか…その城の城主は…」
「ええ、まだ若いのに病に倒れ、齢十ほどの娘が城主に…しかしその直後戦で…」
中在家先輩と私と不破先輩は顔を見合わせ、徐々に導き出される情報に頷く。
「綾ちゃん、卜占村の近くにあった集落って、人住んでそうだった?」
「うん。少しだけど家畜の声も聞こえたし、明かりも見えたよ」
「よーし、じゃあこれからそこに情報収集に行こー」
私がそう言うと、しろちゃんと三ちゃんが私にしがみ付いてきた。
「だめー!!おねえちゃん昨日もあんまり寝てないのに、今日もなんてだめー!!」
「でも急がないと伊作先輩と中在家先輩がぁ…」
「三葉先輩が今日そこへ行くのはだめですぅ!!」
「さ、三ちゃんにそう言われると怖いなぁ…」
むぎゅむぎゅもちゃもちゃしていると、しろちゃんを小平太先輩が、三ちゃんを潮江先輩がそれぞれ片手で抱き上げ私から引き剥がした。
それでもまだだめーだめーと暴れる2人に、不破先輩と鉢屋先輩が笑って、声を揃えてこう提案してきた。
「「じゃあ、その集落への情報収集は、僕たちが行くよ」」
顔も、声も、タイミングも同じでされたその提案に私がぽかんとしていると、中在家先輩がそっと頭を撫でてくれた。
「…2人は5年生で…夜間忍務にも、慣れている…それに、不破と鉢屋なら…情報収集には、うってつけだ…」
「それに三郎は昨日同行してるから集落までの道がわかるし」
「雷蔵はシャグマアミガサタケ城の知識がある。疑われたりはしないさ」
先輩たちのその言葉に、私は少し悩んで、お願いします、と呟いて頭を下げた。
それを見たしろちゃんと三ちゃんはホッとして、漸く暴れるのを止めた。
そして小平太先輩と潮江先輩に降ろしてもらい、私に駆け寄ってぎゅっと抱きついた。
「おねーちゃん、今日はゆっくり寝ようねー」
「不破先輩と鉢屋先輩なら大丈夫ですから、ゆっくり休んでください!!」
「うん…えへへ…2人ともありがとー」
ぎゅーっと抱き締め返してやると、そんな私たちを仙蔵先輩たちが微笑ましく見つめていた。
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「な、何なんだあの可愛すぎる団子は!!」
「留三郎、涎拭いて。『俺も混ざりたい!!』なんて言わないでよ?」
「俺も混ざりたい!!!」
「言ったそばから!!!」
「ははは!!留三郎は気持ちが悪いな!!」
「……変態…」
「おやまあ辛辣。本当の事とはいえ6年ろ組の先輩方は容赦ないですねえ」
「綾部、君も大概酷いよ」
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