七日目


私は図書室を出て2年長屋に向かった。目指すはしろちゃんの部屋。
目的の扉の前に立ち、声を掛けようとしたら、私よりも少し早くしろちゃんの声がした。

「おねえちゃん?どーぞー?」

その声に促されるまま扉を開けると、部屋の中にはしろちゃんがちょこんと座っていた。
何かを感じ取っていたのか、既に私の分の座布団が用意してある。
私はその上に座ると、今さっき図書室であったことを伝える。

「あのねぇ、伊作先輩がちょっと変なモノ拾っちゃったみたいで、厄介なことになりそうなの」

「あー、やっぱりー?今日は左近から変な感じがしたから、何かあるかなぁって」

2人であーららーなんて困った顔をしていると、外からすみませーん、という声がして、扉が開いた。
そこには少し困った顔をした1年は組の三ちゃんが立っていた。

「やや、三ちゃん」

「あ、三葉先輩もいらしたんですね、丁度よかったです」

「三治郎、どーぞー」

そう言ってしろちゃんが座布団を用意すると、三ちゃんはぺこりと頭を下げて座った。

「中在家先輩から聞いてここにきたの?」

「はい、困ったことになりましたね」

三ちゃんがそう苦笑して、しろちゃんと私も思わず顔を見合わせて苦笑い。
しかし余りゆっくりもしていられないので、私は確認も含めて2人に事の末端を話す。

「かくかくしかじかで、伊作先輩の拾った本。あれちょっとまずいかも」

「僕もそう思います。中在家先輩から変な感じが凄くしました」

「僕は先輩たちに直接会ってないからわからないけど、保健委員の左近にも移ってるからねー。おねえちゃん大丈夫なの?」

そう心配そうに見てくる2人にふにゃっと笑い、こくんと頷く。

「たぶん。でもちょっと遠くの村とか行かないとダメで、そうするとまだ下級生の2人には任せられないからぁ、学園のことお願いできる?」

私のその言葉に、2人はこくりと頷いた。よい子だ!!

「今日から七日後まで、色々あると思うけど…明日から早速動くから、よろしくね」

「三葉先輩、今のところ誰にこの話を?」

「えっと、伊作先輩が留先輩に話して、本も見せてると思う。中在家先輩は三ちゃんにこのことを伝えて、小平太先輩から離れないようにって言ってある」

「うーん、ちょっと少なくて心配だねー」

「そうですね、善法寺先輩と食満先輩で分散して、中在家先輩には七松先輩…となると、図書委員と保健委員と三葉先輩がちょっと危ないかも…」

三ちゃんが不安そうにそう言うので、私はあんまり他の人を巻き込みたくなかったけど、仕方なく力になってくれそうな人を考える。
三ちゃんの危険察知は私たちの中で一番秀でているから、この忠告は無視できない。

「たぶん、その本を見なきゃ平気だと思うので…図書委員会は不破雷蔵先輩に理由を話してお願いしましょう。保健委員会はちょっと川西先輩だけじゃ不安なので…」

私は三ちゃんの言葉にこくこく頷く。
図書委員会は確かに不破先輩だけでも大丈夫そうだが、保健委員会は問題だ。
日頃から不運に見舞われている保健委員会、もとい、不運委員会。
それは委員長の伊作先輩を筆頭に、寄せる体質の人が集っているため起こっている。
しかしそれでも酷い怪我や、最悪の事態が起こらないのは、2年の川西左近くんがいるから。
彼の撥ね退ける力は学園随一と言っていいほど強い。
それでもそんな彼も不運な目に遭っているのは、それほどまでにあの不運委員会が寄せに寄せまくっているから。

「じゃあ、私から仙蔵先輩に話して保健委員会をお願いしよう」

よーし、がんばって伊作先輩と中在家先輩を守ろーう!!と3人で腕を突き上げ、私と三ちゃんはしろちゃんの部屋を出た。


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作法委員会の居る作法室に行くと、委員会は終わったのか、仙蔵先輩が綾ちゃんに何か話しているところだった。
ちょこちょこと駆け寄って、綾ちゃんの背中にぴょんと飛びつく。

「おやまあ、三葉。どこのおんぶお化けかと思ったよ」

「えへへー」

「こら、三葉。今喜八郎を説教している最中だ」

「仙蔵先輩、それよりも大変なことが起きまして、助けを求めにきたのです」

私がきりりと仙蔵先輩に言うと、綾ちゃんが変な顔しないのと窘めてきた。かっこいい顔したつもりなのにな。

「大変なこと?なんだ、小平太がとうとうバレーボールで爆発でも起こしたか?」

「へーえ、大変だあ」

「違いますよう、伊作先輩が祟られちゃったんです」

「へーえ、大変だあ」

「喜八郎、その合いの手みたいな返事は止めろ…」

仙蔵先輩が一番に変なこと言い始めたのに、げんなりした顔で綾ちゃんを諌めていた。
私は綾ちゃんの背中に顔をぐりぐり擦り付けた。聞いてよ。

「今回のは本当にまずいんです。何とかしないと伊作先輩と中在家先輩が七日後に死んじゃいますぅ」

「何、長次も?本当にまずいとはどれくらいなのだ?三葉1人で手に負えんのか?」

「はい、既に小平太先輩としろちゃんと三ちゃんに応援を求めてます」

「それは…」

ほぼ総出じゃないか、と仙蔵先輩は顔を引き攣らせて笑った。
どうやらこの大変さが伝わったみたいで、保健委員の擁護を手伝ってくれることになった。
私は綾ちゃんにも同じお願いをしようとしたところ、それより先に綾ちゃんが

「僕は三葉についてく」

と言い出した。
私が危ないとか遠くに行かないといけないとか言っても、頑なについていくと言って聞かない。困ったちゃんだなぁ。
その問答を見ていた仙蔵先輩が、見かねて窘めてくれる…かと思ったら、私のことが心配だからちゃんと守れ、なんて言って綾ちゃんの肩を持った。

「もー、仕方ないなぁ…でもホントに危ないんだから、気をつけてよぉ?」

私が折れてそう言うと、綾ちゃんはちょっとだけ嬉しそうに頷いた。

「よぉーし、綾ちゃん、明日卜占村に行くからね」

「はぁーい」

「卜占村…ああ、噂の廃村か…しかし伊作も不運だな…どれ、文次郎も巻き込ん…仲間に入れてやるか」

「「(今巻き込んでやるって言いかけてたなぁ)」」


こうして、恐怖の七日間は幕を開けたのです。


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