さがしもの

「あ、丁度良かった。もしよかったら三葉ちゃんも来ない?一緒に遊ぼうよ」

5年生の尾浜勘右衛門先輩に誘われて、わー何して遊ぶのかな、なんて気軽についていった私が、おばかでした。




「以上が説明!!あと、絶対に肩を叩かれても振り返っちゃだめだからねー」

楽しそうな尾浜先輩と、物凄く嫌そうな竹谷先輩、不破先輩、鉢屋先輩、兵助先輩、そして私。
こんな遊び全然楽しくない、と思いながらも、促されるまま渋々ごろりと横になる。私の右隣は兵助先輩、左隣は鉢屋先輩。兵助先輩にしっかり親指を握ってもらい、鉢屋先輩の親指をしっかり握る。対面では半泣きの不破先輩が竹谷先輩に、絶対に離さないでよ、離したら一生恨むからねと叫んでいた。

(自分がばらばらにされて殺されるなんて、想像でも、したくないなぁ…)

そんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じる。
暫くふわふわした感覚に身を委ねていたら、突然体がひゅう、と落ちるように感じ、慌てて目を開けた。

「ほへ…?」

思わず零れた間抜けな声。目の前には大きな大きな、お屋敷?
まるで私を飲み込むように大きく大きく開いた入り口は、真っ暗。不穏な気配しか感じないけれど、何故かそこに入らなければいけないような気がして、私は恐る恐る一歩を踏み出した。

「お邪魔、しまーす…」
 一応の礼儀、と思い小さく呟くも、当然返事はない。
きょろきょろと周囲を見回しながら奥へ奥へと進んでいくと、大きなお部屋に出た。そこは掛け軸がある立派なお部屋で、客間、のような感じがした。
誰もいないことを確認し、その奥へと進む。また長い長い廊下を通り、今度は台所だろうか。立派な釜や流し場がある。
そのすべてがどことなく不気味で、さっさと通り過ぎた。
そしてまた長い長い廊下。

いい加減不安になった時に、突然ぽんぽんと肩を叩かれた。
ひょっとして、このお家の人だろうか…瞬時に振り返ろうとしたその時、とてもとても小さな声で、振り向くな、と聞こえた気がする。
そして同時にフラッシュバックする尾浜先輩の声。

『絶対に肩を叩かれても振り返っちゃだめだからねー』

思い出し、悪寒が背中を駆け抜ける。
怖くなった私は、短い悲鳴を上げて駆け出した。背後からは、ぎしぎしと床が軋む音。

「やだやだ、ついてこないで!!」

半泣きになりながらそう言って駆け込んだのは、先ほどまでとは違う小ぢんまりとした和室。
ぐすぐすと鼻を啜りながら襖を閉めてその場にしゃがみこむと、部屋の墨にぽつりと置かれた小箱が目に入った。
なんとなく気になって、のそのそと近付き、恐る恐る蓋を開けてみる。

「ひっ…!!!」

箱の中からころりと転がり出てきたのは、細いきれいな、血塗れの親指だった。





「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

恐怖のままに叫ぶと、突然何か暖かいものに包まれた。いつの間にか零れていた涙をこしこしと擦りつつ目を開けてみると、一面が群青色に染められている。

「三葉、大丈夫か!?三葉!!」

そう呼びかけられ、恐々顔を上げると、頬にふわりと当たる柔らかな髪の毛。普段は飄々としているその人は、酷く心配そうに私を見ていた。

「はち、や先輩…?」

「どこも怪我してないか?振り返らなかったか?」

やや早口でそう聞かれ、私は泣きながら何度も頷く。それにホッとして、鉢屋先輩はぎゅうと抱き締めたまま尾浜先輩に向かって怒鳴った。

「だから止めろと言ったんだ!!私たちの中に入ったらこいつのところに行くのなんか考えなくてもわかるだろう!!何事もなかったからいいものの、ごめんじゃ済まされないことだってあるんだぞ!!」

普段とは全然違う鉢屋先輩の怒鳴り声で、尾浜先輩は完全にしょぼくれてごめん、もうしないよと繰り返し呟いた。
止めきれなかった僕らにも責任があるよと不破先輩が鉢屋先輩を宥めているのをぼうっと眺めていたら、兵助先輩がほら、と手拭を差し出してくれた。
竹谷先輩も、心配そうにしている。

次々に頭を撫でてくれる、その優しい手で何とか落ち着いた私は、先程の夢?をゆっくりと話す事にした。

鉢屋先輩に抱えられたまま内容を話し終えると、尾浜先輩がどんぐりのような目を更にまん丸にして、見つけたの?と問い掛けてきた。
もしかして見つけちゃいけなかったのだろうかと不安になっていると、鉢屋先輩が優しく頭を撫でてくれた。

「怖い思いをさせて悪かったな、三葉。でも、その親指を見つけると、いいことがあるらしいぞ?」

「いいこと?」

鸚鵡返しにそう尋ねた私に、鉢屋先輩は優しく、ほんとにいいことあるといいな、と笑った。




その日から、驚くことに本当に幸運に見舞われた。
授業ではやることなすこと先生に褒められ、ご飯は何故か大盛り、道を歩けばお金を拾い、失敗は一転してことごとく成功。
ほんとにいいことばっかりだ、と驚きつつ、先日のことを思い返すと浮かんでくるのは鉢屋先輩の優しい笑顔ばかり。

「………う〜〜〜…」

勝手に熱くなってしまう頬をこしこしと手の甲で擦り、大きく息を吐くと、私の足は勝手に5年生の教室のほうへと向かい始めた。





(あの、鉢屋先輩、もしよかったら、こ、これからお団子食べに行きませんか?)

(三葉…………ああ、いいぞ)
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勘ちゃんが可哀想な役割に…
星麗様、リクエストありがとうございました



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