異次元の君

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いつもより遅い夕食を取るため食堂に行き、おばちゃんから定食を受け取った時、見慣れた深緑色が6つ顔を出した。
一番最後にひょこひょこと現れた柔らかな茶髪と目つきの鋭い深緑が、私を見つけるなりだらしのない笑顔で駆け寄ってくる。

「三葉〜!!俺の癒し!!」

「こんばんは、三葉ちゃん」

「留先輩、伊作先輩、こんばんは。これからご飯ですか?」

「ああ、今さっきやっと訓練が終わってな」

「ほわぁ、そうなんですか、それはお疲れ様ですねぇ」

のんびり話しながら手近な机にお盆を置くと、小平太先輩と潮江先輩がおばちゃんから定食を受け取って、私の方に歩いてきた。
その後に仙蔵先輩と中在家先輩も続く。
伊作先輩と留三郎先輩が入れ違いで夕食を取りにカウンターへ行くと、小平太先輩が元気よくガッチャンと私の向かいにお盆を置いた。
少し飛び散ったお味噌汁を、小平太先輩の隣に座った中在家先輩が甲斐甲斐しく拭き取る。

「飯だー!!!」

「うるっせぇ!!!」

よっぽど空腹だったのか、大きな声で叫ぶ小平太先輩に潮江先輩が怒鳴る。
苦笑いしながらお盆を持った伊作先輩と留三郎先輩もやってきて、私の向かいに小平太先輩、その隣に中在家先輩、仙蔵先輩、私の隣に潮江先輩、伊作先輩、留三郎先輩が座り、それだけで食堂は一気に賑やかになった。

改めてご飯を食べようとお箸を持ったところで、正面の小平太先輩が私の煮魚定食をじーっと見つめていたことに気付く。
何をそんなに見ているんだろう、と不思議そうに首を傾げると、小平太先輩は自分のから揚げ定食と私の定食を交互に見て、珍しく顔を顰めた。

「どうかしましたか?」

「三葉、お前肉をもっと食え」

まるで窘められるようにそう言われ、きょとんとした私。その隣から、潮江先輩もひょいと私のご飯を覗き、頷いた。

「小平太の言う通りだな、そんなんじゃ立派な忍になれんぞ」

「ほぁ?でも…」

「ようし、三葉!!私と大食い勝負どんどーん!!」

どんどーん、と叫んで、小平太先輩はカウンターに走り、おばちゃんからお櫃を受け取り、それを机の上にドンと置いた。

「勝負なら俺も乗った!!」

「勝負馬鹿が…」

「ハッ、負け犬鍛練バカの遠吠えが聞こえらぁ!!」

「誰が負け犬だ!!吠え面かかせてやる!!」

「「やったろーじゃねーか!!!」」

ぐぐぐ、ぎぎぎ、と睨み合う潮江先輩と留三郎先輩、小平太先輩と私で、何故か突如大食い勝負が行われることになってしまった。
さてどうしよう、と困っている私に心配そうな視線を向ける伊作先輩と中在家先輩にへらりと笑って見せ、仙蔵先輩とカウンターのおばちゃんを交互に見ると、2人はとっても楽しそうにグッと親指を立てられておりました。



「許可…ですかぁ…」






−−−−−−−−−−−−−
(数十分後)
−−−−−−−−−−−−−

「おぇぇぇ…」

「ぐふぅぅ…」

机に十程積まれた丼を前に、潮江先輩と留三郎先輩が仲良く口元を押さえて唸りながら、揃ってカチャンと箸を取り落とし、机に突っ伏す。

「いけいけ…どんど…んぇっぷ…」

そんな屍と化した留三郎先輩の隣で、小平太先輩が15杯目の丼を持ったまま、いつもと違う感じの鳴き声をあげた。
初めて見る顔面蒼白の小平太先輩に、中在家先輩は驚きつつもお茶を差し出す。
同じく青褪めている伊作先輩が、恐々と私に問いかける。

「三葉ちゃん…だ、大丈夫、なの?」

「え?まだまだ全然大丈夫ですよぉ」

私はそう言って、伊作先輩に29杯目の丼を掲げて見せる。
白目を剥きかけた伊作先輩の肩を軽く叩き、仙蔵先輩が楽しそうに笑った。

「ハハハ、三葉はな、この体で大飯喰らいだぞ、養えるか?」

「ぼ、僕だって男だ!!稼いでみせ、る…よ…」

「ほぉっほーぅ、伊作も言うじゃないか」

「あ、いや!!今のは違…わないけど…その…!!!」

頬を真っ赤に染めて照れる伊作先輩の後ろで、とうとう小平太先輩が動きを止めて、苦しそうに呟いた。

「!!!…いけどんぉぷっ!!」

「だー!!!小平太!!!出すな出すな!!!」

大慌てで小平太先輩の口を押さえる潮江先輩をよそに、私は空になった29杯目の丼を掲げておばちゃんに見せる。

「おばちゃーん、おかわりくーださーいなー」

はいはい、と30杯目の丼を持ってきてくれたおばちゃんが、呆然としている留三郎先輩にお茶を差し出して笑う。

「本当に三葉ちゃんってばよく食べるのよぉ、弟の四郎兵衛くんも結構食べるんだけどね、この子はそれ以上。一体どこに入っていくのかしらねぇ」

「そ…そうなんですか…四郎兵衛も…あぁ、体育委員会だから…」

「そうねぇ、体育委員会の後は小平太くんより食べるし…いつもは我慢してくれてるんだけど、まぁたまにはいいわよね、成長期なんだから」

そう言ってにこにこ笑うおばちゃんに、完全に白目を剥いてしまった留三郎先輩。
そんな会話がされてるとは露知らず、私はしばらく丼を掲げて同じ言葉を繰り返していた。




(おばちゃーん、おかわりくーださーいなー)

(…三葉…まだ、食べる…のか…?)

(はい、許可が出たのでいっぱい食べますよぉ)

(ある意味ホラーだな)


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