人をダメにする天使

ある日のこと。
5年ろ組の担任教師から用事を頼まれた鉢屋三郎は、手早くそれを済ませて長屋へと戻る。
今日は委員会活動がないので、きっといつもの面々はのんびりおやつでも食べながら放課後を満喫しているだろう。
自分も早く混ざりたいものだと考えながら長屋についた三郎は、予想通りにぎやかな声が漏れ出している自室の扉を開く。

「おまたうわああああああ!!」

そして言葉の途中で大絶叫。珍しい人物の大層大きな声に驚いた彼の友人たちは、目を見開いて硬直してしまった。
しかし、そんなことは大した問題ではない。
そう、問題はそこではないのだ。

「なっなっなっ、なんだそれは!!?」

悲鳴を上げた三郎は、ぶるぶると震える手で顔を借りている友人を指さす。
指をさされた人物は、どんぐりのような瞳をまん丸にして、平然と彼の質問に答えた。

「時友三葉ちゃんだけど?」

まるで普段通りの不破雷蔵の姿と回答に、いやそうじゃなくて、と些か冷静さを取り戻した三郎は、彼に抱かれている幼女の前へと歩み寄る。
時友三葉。くのいち教室4年生に在籍する忍術学園の生徒…のはずなのだが、目の前で今しがた紹介された少女はどう見ても幼児。幼児というか、赤ちゃん。

「いったい何がどうなってこうなったんだ…」

意味が分からない、と視線で文句を垂れた三郎は、誰か私にもわかるように説明してくれと両手を上げて降参のポーズ。すると、同じろ組の竹谷八左ヱ門がいつもの快活な笑顔を浮かべて口を開いた。

「おほー、実はな…」

彼曰く、本日生物委員会の活動はないものの、飼育している生物たちの餌やりは欠かせないので、日課であるお食事を後輩である伊賀崎孫兵と共に飼育小屋へと届けに行った時のことだった。孫兵は自分のペットたちに餌やりを済ませ、八左ヱ門も同じく飼育している動物たちに食事をさせ、脱走対策のための施錠確認を行い、さあ戻るかと踵を返したとき、うさぎ小屋の近くで蠢く桃色を見つけたそうだ。
くのいち教室の子が好んで近付く場所でもないため、ふとたんぽぽの綿毛のような少女かと思った彼は、確認のため少女の名を呼びながらひょっこりと小屋の裏を覗き込み、そこで何故か小さくなった三葉がヨチヨチ歩きしているところを保護したという。

「俺が気付いた時にはもうこの姿だったから、何があったのかまではわかんねーけど」

「聞けばいいじゃないか本人に」

「じゃあ三郎、聞いてみなよ」

話の大まかな流れを聞き、上級生が4人も揃って、異常事態だというのに何を呑気にしているんだと眉を吊り上げた三郎は、勘右衛門に促され雷蔵の前に座り、彼に抱かれている三葉に声をかけた。

「三葉、一体何があった」

「うー?」

その瞬間、鉢屋三郎はどたりと床に倒れ込む。
その姿を見て、そら見たことかと大笑いし始めた勘右衛門は、俺たちだって最初は慌てたんだけど、と前置きしてから、三郎を起こしてやった。

「こんなの絶対何かあったって思うじゃん。でも、三葉ちゃん見たところ2歳くらいになってて、何があったのかまだうまく伝えられないらしくてさ、よくわからないんだ」

「そ、それにしたってもう少し対処法なりなんなり探すべきだろう!!雷蔵、君までそんな嬉しそうに三葉を抱っこしてないで、ほら、図書委員会お得意の推察とかで!!」

「んー?僕、難しいことわからないや」

「雷蔵おおおおっ!!なんでそんな知性を放り投げちゃったの!!」

「だって、ちっちゃい三葉ちゃんすごく可愛いんだもん。僕の語彙力は死にました」

「…と、言う具合でだなあ」

呆れたように言うが、八左ヱ門も似たような顔をしているのを見てしまった三郎は、頼りにならない同級生に見切りをつけ、学年が誇る秀才に期待を込めて視線を送る。

「はー…かっわいいのだぁ…」

が、彼はとうの昔に骨抜きにされており全く役に立ちそうになかった。

「くっ、どいつもこいつも!!三葉に身に何かが起こってるのにお前らそれでいいのか!!こうなったら私が!!」

強く意気込み、三郎はもう一度雷蔵の前…いや、正しくは彼に抱かれている三葉の前に座る。

「三葉!!」

「あーいっ」

「んっぐぅぅぅ…!!」

そして、唸って倒れた。
その姿を見て雷蔵が笑う。

「ね、すっごいよね。普段から可愛い子だとは思っていたけど、子供の頃は輪をかけて可愛いよね」

「ふぐぅ…幼女っょぃょぅ…」

「兵助も最初は慌ててたんだけど、三葉ちゃんに袖掴まれて抱っこせがまれた途端に脳死した」

「勘右衛門と俺も無理。とりあえず変質者が嗅ぎ付けたときの為に動けるようにしているだけ。原動力は三葉だ」

「把握」

雷蔵の指で遊んでいる三葉を無意識のうちに撫でながら、三郎は己の脳内がどんどんと花畑になって行くことに気が付いた。だが、それをどうやって止められようか。
赤ちゃん特有のふにふにしたほっぺを赤く染め、何が嬉しいのか5年生の顔を見回してはにぱぁっと笑う。言語の発育が少し遅い子だったのか、言葉にならない声を発しながら短い手足をばたばた動かし全身で喜びを表現する三葉は、控えめに言って天使。

「はー!!ああー!!かっわいいのだぁー!!」

「あーいー?」

「そうそう、三葉ちゃんはかわいいねー」

「う、あきゃー!!」

「可愛い」

「尊い」

「ばぶぅ…っ!!」

結局、あれだけわあわあ騒いでいた三郎も陥落し、彼も無事脳死判定。
翌日三葉が元に戻るまで、一体少女に何があってどうしてそうなったのか、一切謎のままだった。
だが、それを気にした人物は、一人としていない…。



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えいこ様。
この度は777777Hitおめでとうございました!!
リクエストいただきました【幼児化】でしたけれども、よ、よろしいですか?
なんか調べてみたら幼児って0〜6歳までを指す言葉らしく、どこら辺の年齢設定が一番求められてるのか考えたんですけど、普通に喋っちゃったら普段と何も変わらないのではと焦り気付いたらばぶになってましたばぶう。
なんだかよくわからんお話になってしまっていますが、まあ日常の一コマみたいにさらーっと読んでいたければと思います。
それでは、少しでもお楽しみいただけましたら幸いでございます!!
この度は記念すべき777777Hitおめでとうございました!!今後もななやをどうぞ宜しくお願い致します★

祭より、大きな愛を込めて。


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