四日目


不破先輩と鉢屋先輩が情報を手に入れて戻ってきた翌日の放課後。
伊作先輩が保健委員会の当番の為、私と不破先輩、鉢屋先輩は医務室に集まることになった。
同じ保健委員当番の鶴町伏木蔵くんは珍しいその顔ぶれに『スリルぅ〜』と呟きながらも、マイペースに包帯を巻いている。

伊作先輩と私はかくかくしかじかまるまるうまうまと昨日のことを話してくれた先輩たちにお礼を言って、顔を見合わせ頷いた。

「少しずつではありますが、だんだん謎が解けてきましたねぇ」

「そうだね、でもまさかタソガレドキの名前が出るとは…」

「うーん、こなもんさんにお話伺うのが一番早そうですけど、いつ来られますかねぇ?中在家先輩も危ない目に遭ったし、急ぎたいですけどぉ…」

私のその言葉に、3人の先輩は一斉に驚いた顔で詰め寄ってきた。

「中在家先輩が!!?」

「そそそそれってあれか三葉!!本の祟りでか!!?」

「はい、昨日図書室で襲われました」

「ええぇ図書室でって、じゃあの扉とか窓は僕らを襲ったアレのせいなの!?」

「あ…それは…小平太先輩が…どんどーんって…」

「こ、小平太か…」

「ちょっ、三葉ちゃん何でそんなにプルプルしてるの!?」

「七松くんが三葉ちゃんにトラウマ植えつけちゃったんじゃない?」

「三葉が震えるほどのトラウマ…聞きたいような、聞きたくないような…」

そこまで会話をし、私を含めた4人が全員はた、と動きを止める。
本来ならば聞こえるはずのない声。全員でばっと声が聞こえた方向を見る。

「やあ、私に聞きたいことって何だい?」

こなもんさんが、伏木蔵くんを膝の上に乗せて優雅に手を上げていた。


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4人でひっくり返った後、雷蔵先輩と鉢屋先輩はそそくさと医務室を出て行った。
私は先輩たちを見送った後、こなもんさんに向き合う。

「こなもんさん、こんにちは」

「はいこんにちは。でも三葉ちゃん、何度も言うけど私は雑渡昆奈門だからね?こなもんじゃないからね?」

「すみません、こにゃもんさん」

「雑・渡・昆・奈・門」

「ざっとこんにゃ…じゃっと…、ざっと、こんにゃもんさん!!」

「言えてないけど可愛いから許す」

そう言って三日月みたいに目を細め、私の頭を撫でるこなもんさんに、伊作先輩が大きな咳払いをした。伏木蔵くんはこなもんさんの膝の上で「すりるぅ〜」である。

「で、聞きたいことって何だい?」

再度こなもんさんがそう言ってくれたので、私ははっとして本来の目的を思い出す。

「こなもんさん、卜占村の戦、覚えておられますか?」

卜占村という単語に少しだけ反応を見せたこなもんさんは、陣左、と天井裏に呼びかける。
すると、音も立てずに名を呼ばれた高坂さんが降りてきた。

「聞きたいことって言うのは、卜占村の戦のことなの?」

こなもんさんのその言葉にこくんと頷くと、彼は膝に乗せていた伏木蔵くんを伊作先輩に預け、代わりに私を膝の上に抱き上げた。

「実は、今ちょっと伊作先輩が大変な目に遭っておられまして…」

「伊作君が?またそれはどうして?」

「不運なことに、呪いの本を拾って祟られちゃったんです」

「そりゃ不運だねえ」

そう軽く話している内に、伊作先輩は伏木蔵くんに何かを喋って、長屋に帰らせた。そして医務室の扉を閉めると、懐からあの本を取り出した。

「あんまり不運不運言わないでくださいよ…これがその本なんですけど」

「ふうん?普通の本みたいだけど…?」

そう言って物珍しそうに、こなもんさんは本を眺める。
そして、本を開いて中を見ようとしたところで、私と伊作先輩は慌ててこなもんさんを止める。

「その本読むと祟られます!!」

「、えー、言うの遅いよ、伊作君、三葉ちゃん」

こなもんさんは慌てもせずそう言うと、開きかけた本を置いた。

「やぁ、うっかりしてました」

「君のそういう強かな所好きだなあ」

「で、読んじゃった伊作君は祟られた、と」

「はい、このままだと伊作先輩と中在家先輩と潮江先輩と私の四人は、七日後に死んじゃいます」

「へー、そりゃ大変だ」

なんだか全然大変そうに聞こえないこなもんさんの言葉に、伊作先輩はがっくりと項垂れた。

「まあ、可能性の塊のためだ。手を貸そうじゃないか」



こなもんさんはニヤリと笑いそう言ってくれたので、私たちはここ数日で調べたことを話し始めた。



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