星空を眺めて

校庭の木にしがみついてじわじわと鳴く蝉の声を聞きながら、私は一冊の本を読み終わってぱたりと閉じた。
時刻は放課後。作法委員会の委員長である立花先輩が本日ご用事で不在のため、委員会がお休みになったので、久しぶりに図書室に来た私は、今読み終わったお花の本を抱えて席を立つ。
植物関係の本が置いてある棚に読み終えた本を戻して、次は何を読もうかなと通路を歩く。
動物の本…は少し前に読んだし、食べ物の本は…お腹空いちゃうしなぁ。
そんなことを考えながら本棚を見ていると、一冊の本が目に留まった。

「星の本…?」

初めて目にするそれについ、声が漏れる。きれいな表紙のそれが気になったので、取ろうと背伸びをして手を伸ばす。

「…っう〜〜〜」

けど、高い所にあるから手が届かない。上級生が読む本は難しいものが多いし、ちょっと内容が…過激なものもあるから、下級生の手の届かないところに置くようになっているんだけど、悲しいかな、私の手も届かない。

「うぅ〜〜〜〜〜っ」

「これ?」

「はわ…」

手が届かないのが悔しくて、意地になって伸びをしていたら、背後から大きな手が伸びてきて、星の本が目の前に降ってきた。
顔を上げれば、星の本と同じ色の装束と、優しい笑顔。

「ありがとうございます、不破先輩」

「どういたしまして。その本、表紙がすごくきれいだよね、僕も気になってたんだ」

「そうなんですかぁ…あ、じゃあ委員会が終ったら一緒に読みませんか?」

「え?いいの?」

「もちろんです」

「じゃあ、本で勉強した後に、本物の星を見ようか」

「わぁっ、素敵ですねぇ」

一気に決まった計画に、つい楽しくなってしまって声が大きくなっちゃった。慌てて口を押えて貸出し机を見れば、普段図書室での私語を固く禁じている深緑の先輩は、私語厳禁の張り紙を指さしながら優しい目で私たちを見ていた。


そしてその日の夜、約束通り星の本を一緒に読んだので、また夕食の後に5年長屋においでと誘われた私は、不破先輩の部屋の扉を叩く。
お返事があったので扉を開ければ、そこには5つの笑顔。

「先輩方、こんばんわぁ」

「三葉ちゃん、いらっしゃい」

ぺこりと挨拶をすれば、不破先輩が優しく頭を撫でてくれた。それを見てた鉢屋先輩がもにゃもにゃ言って、兵助先輩に叩かれてた。5年生は本当に仲良しだなぁといつも思う。

「三葉ちゃん雷蔵と星座観察するんだってね、俺たちも一緒にいいかな?」

「もちろんですよぅ尾浜先輩」

「おほー、時友、夕涼みに良いもの準備してやったぞー」

「いいもの?なんですか?お夜食ですか?」

私の質問に答えてくれないまま、竹谷先輩は快活に笑って、何やら風呂敷をかぶせた大きな四角いものを右手に持つ。すると同時に体がふわりと浮いて、びっくりした私は手をのばす。
触れたものは、ふわふわ。

「あ、ごめんね。驚かせちゃった?」

「あわわ、私こそすみません」

咄嗟に掴まった、不破先輩の髪の毛。ふわふわと触り心地の良いそれからなかなか手を離せないでいると、引っ張らなければそこ掴んでいてもいいよと笑って言ってくれた。
竹谷先輩が四角いものを持ったまま勢いよく屋根に登る。それに続いて不破先輩も、私を抱えたまま跳んだ。
そのあとに尾浜先輩が来て、鉢屋先輩は失敗したのかな、転んでいた。それを踏んづけて、兵助先輩が跳躍し、私の目の前に立った。

「三葉、上を見てみるのだ」

「ふぁぁぁ…」

促されて見上げた空には、たくさんの星。どれもキラキラと光って、とてもきれい。
ぽかりと口を開けたまま空を見上げる私に、兵助先輩はくすりと笑って、見つけやすい強い光を放つ星から名前を教えてくれた。
その星をいくつか辿って、色々な星座の形になることを不破先輩が教えてくれる。
さっき本を読んだばかりだから、そのお話がとても面白い。
夢中になって聞いていたら、私の耳に届いた鈴の音。

「あ、鈴虫さんだぁ」

「おほー。生物委員会で夏の間食事の面倒を見てる鈴原一族だ。きれいな歌だろー?」

「はいっ、とっても、すてきですっ」

竹谷先輩の元気な笑顔につられて、私も笑顔になる。
静かな夜に、鮮やかな星と鈴虫の歌声。
とても素敵な夜を過ごせた私はその日、星の川で先輩たちと遊ぶ夢を見た。


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えいこ様
初めましてえいこ様、祭です。
この度は企画参加とお気遣いどうもありがとうございます。
当サイトが亀更新になってからしばらくなりますが、それでも楽しみにして下さっているとのことで本当にありがとうございます!!陰ながらなんて言わずに、どうぞ正面からバンバン応援してくださいませw
こちらこそ、いつも応援ありがとうございます。今後とも頑張りますので、またいつでも声をかけてやってくださいね!!
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