被害者:学級委員長委員会

会議室に入ると、そこでは5年生の尾浜勘右衛門がごろりと寝転がって煎餅を齧っていた。

「あれ?澄姫先輩いらっしゃい」

「お邪魔するわよ…あら?」

澄姫は勘右衛門に挨拶を返した後、会議室を見渡す。いつも礼儀正しい1年生の姿が見当たらなく、彼女は三郎に問い掛けた。

「あぁ、何か今日は初めての夜間訓練があるらしくて」

「そうなの…はぁあ、貴重な癒しが…」

不在の1年生の笑顔を思い出し、彼女は溜息混じりに呟いた。

「癒しって…澄姫先輩疲れてるんですか?お煎餅食べます?」

その呟きに反応した勘右衛門が体を起こし、煎餅の袋を彼女に差し出す。お礼を言って煎餅を受け取りポリ、と齧る彼女の覇気の無さに、三郎と勘右衛門は顔を見合わせて首を傾げた。
突然殴られたことも、今の様子も、どこかおかしい。

「あ、先輩。さっき言ってた菓子、鬼饅頭。勘右衛門持ってこいよ」

「はぁ!?なんで俺が…自分で取りに行けよ…ったく」

文句を言いながらも勘右衛門は立ち上がり、棚から鬼饅頭を持って澄姫に差し出した。
もくもくと鬼饅頭を咀嚼する彼女の様子を見て、三郎は徐に立ち上がり、彼女の背後に回りこんで肩を揉み始める。

「うっわ!!ガッチガチじゃないですか!!」

「そう…疲れてるのかしら…」

「澄姫先輩、疲れてるなら三郎にマッサージしてもらったら?こいつ結構上手いですよ?」

勘右衛門に勧められて、澄姫は少し考えた後お願いしようかしら、と呟いた。
その言葉に御意、と頷いて、三郎は本格的に彼女の肩を揉み始める。

「いたたた…あー、でも、確かに気持ちいい…」

「背中もすごい凝ってますよ…澄姫先輩、ちょっと横になってください」

そう促して、三郎は彼女をうつ伏せに寝かせて腰の辺りをぐっと押した。すると、バキ、という音がして澄姫は大きく息を吐いた。

「あ、何今の…凄い楽になった…」

「先輩飼育小屋の掃除する時前屈みになるじゃないですか、それが癖になってん、です、よ!!」

ぐっ、ぐっ、と肩から背中を掌で押して、その後に親指で肩甲骨周辺を押していく。気持ちいいのか眉を下げながら片手で鬼饅頭を持ってマッサージされていた彼女の前に、小さな皿が差し出された。

「先輩、饅頭置いたらどうですか?」

「あ、りがとっ、勘右衛、門ん…」

気を遣ってくれた勘右衛門に、息も絶え絶えになりながらお礼を言うと、勘右衛門は満面の笑みで彼女の正面に正座した。

「??」

「あ、俺のことは気にしないでください」

「そ、う?っあ、そこっ、イイっ」

突然目の前に座った勘右衛門に首を傾げながらも、的確にツボをついてくる三郎のマッサージに澄姫は気持ち良さそうな声を洩らす。

「………」

「はァ、っん…、すごく、っイイわ…そこ、ぉ…!!」

眉を顰めて頬を染める彼女の姿と声に、何やら妙な空気になっていく会議室。
しかしそんなことは気にも留めずに、澄姫ははぁ、と熱っぽい溜息を吐いて視線を三郎に向けた。

「ありがと、随分楽になったわ」

「そ、う…ですか。それはヨカッタデス…」

にこにこと上機嫌にお礼を述べる彼女から目を逸らして、三郎は体を離した。相変わらす勘右衛門は満面の笑みである。

その後、他愛ない話をしながら鬼饅頭を食べ終えた澄姫はお礼を言って会議室を後にした。





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彼女が去って少しした時に、徐に勘右衛門がぐっと親指を立てた。

「…三郎、ぐっじょぶ!!」

「はぁ…勘右衛門、お前ちゃっかりセンターポジション陣取りやがって…見た?」

「見た見た。っていうか谷間も凄かった」

「クソッ!!!」

「やー、これは暫く困らないわー」

「あー畜生!!私も見たかった!!」

「あは、俺すっごいムラムラした」

「奇遇だな、私もだ」

ひそひそと交わされる青少年の会話は、妙な盛り上がりを見せた。




お題:確かに恋だった

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