歓迎会

朱雀が無事に編入初日の授業を終え、夜も更けた頃。
自室で寛いでいた澄姫の目の前に突然黒い影が降ってきた。

「あら、いらっしゃい仙蔵」

これといった動揺も見せずに彼女がそう笑うと、仙蔵もまた似たような笑みを浮かべて口を開いた。

「これから朱雀の歓迎会をするが、来るか?」

そう言って口の前で手を傾ける仕草をした仙蔵を見て、澄姫は小さく笑った。

「是非、と言いたいけれど、いいのかしら?彼女性が苦手なのでしょう?」

「朱雀は構わんと言っている」

その言葉を聞いて、澄姫はゆっくりと立ち上がった。
本人がいいといっているならば、断る理由も特にない。そう思い、2人は静かに部屋を出て6年の忍たま長屋へと向かった。


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「遅いぞ澄姫!!」

朱雀に宛がわれた部屋に入るなり、いい感じの小平太にそう言われ仙蔵は大きく溜息を吐いた。

「待っていろ、と言ったはずだが?」

「細かいことは気にするな!!」

澄姫と、彼女を迎えにいった仙蔵の帰還を待たず、歓迎会は開始されていたようである。
部屋の奥に朱雀、彼から右回りに小平太、長次、留三郎、伊作、文次郎と円になって座っている。
文次郎の横に腰を下ろした仙蔵が、隣に座るよう彼女を促した。
仙蔵と朱雀に挟まれるように澄姫も腰を下ろすと、必然的に彼女の正面になった留三郎がお猪口を片手に上機嫌に笑った。

「俺すげぇ眼福!!」

その言葉に、伊作もお猪口を傾けながらつられて笑う。

「本当だ、留さん羨ましい」

は組のそんな言葉に、文次郎と長次も顔を上げる。酒が入っていつもより柔らかい雰囲気の文次郎が、仙蔵と澄姫にお猪口を渡しながらフンと笑った。

「こっち2人の中身は最悪だけどな」

向かいに座る長次のお酌を受けながら、聞き捨てならない文次郎の言葉を反芻した仙蔵が文次郎の足を強かに抓った。

「いででで!!何しやがる!!」

「悪かったな、中身が最悪で」

そう吐き捨てるように呟いた仙蔵の言葉に、明るい笑い声が広がる。

「でも、うん、朱雀って綺麗な顔だよね」

「仙蔵と似たような顔立ちだよな?」

「うんうん、3人とも綺麗系だね」

あっという間にほろ酔い気分のは組がそう言うと、小平太が上体を傾けて朱雀の顔を至近距離から覗き込んだ。

「確かに仙蔵と似てるな、綺麗だけど“男”だもんな」

ははは、と笑った小平太が膝立ちで一歩前に進み、ぐいぐいと酒を呷っている澄姫に顔を近付けた。

「…あによ」

「ん?いや、澄姫、あれ?お前そんな酒強かったっけ?」

小平太がそう言うと、黙ってちびちびとお猪口を傾けていた長次が珍しく慌てて立ち上がった。
彼の長身から見下ろすと、気付けば彼女の背後にはいつの間にやら一升瓶が転がっており、会話の合間にハイペースで飲んでいたことが判明した。

「強いわよ、私は強いわよ」

「そうかそうか、じゃもっと飲め!!」

そう言って小平太が酒を注ぎ、口を付けようとした彼女から長次がお猪口を取り上げた。

「あー!!かえして!!かーえーしーてー!!」

「…もう、終わりだ……」

「いやーん!!」

結構酔いが回って口調が変わっている澄姫が手を伸ばすも、長次には届かない。何と言って言い含めようかと長次が思案していると、突然背後から口に何かを突っ込まれた。
目を白黒させつつも何とか視線を向けると、そこには小平太が笑顔で立っていた。
手に持った一升瓶を、長次の口に突っ込んで。

「長次ももっと飲め!!」

そう言い放ち、勢いよく瓶を傾ける。
重力に従って流れ込んでくる液体を反動で飲み込んでしまい、長次は大きく咽た。
そして次の瞬間、彼の大きな体躯は床へと倒れた。

「ばーか、小平太。長次は酒弱いんだから無茶さすなっての」

倒れた長次を見てげらげらと笑い留三郎がそう言うと、小平太は豪快に笑い忘れてた、とのたまった。
倒れた長次の手からお猪口を取り戻した澄姫が上機嫌に仙蔵にお酌を受けると、先程から唖然としている朱雀にお猪口を突き出した。

「あんたもー、飲みなさいよー?飲んでるー?」

「あ、の、飲んでます…」

「あんで敬語なのよー?」

眉を顰めて朱雀に絡み始めた澄姫に、伊作が笑いながら声を掛ける。

「こらこら、澄姫ちゃん。朱雀は女の人苦手なんだからあんまり絡まないの」

「あー?あによー伊作めー可愛い顔しちゃってー!!」

すると、助け舟を出した伊作に標的が向き、澄姫はずるずると床を這って伊作の膝にこてんと寝転がった。
さらりと流れた澄姫の艶やかな髪を優しく撫でてやると、何故か留三郎がもう片方の伊作の膝にごろりと横になった。

「おいー!!ここは俺のだぞー!!」

留三郎のその一言に、朱雀が口に含んでいた酒を勢いよく噴き出す。
変なところに入り込み激しく咽る朱雀の背中を仙蔵が摩ってやり、しっかり酔いが回っている小平太が寝転がる澄姫の太股に抱きついた。

「私にも膝枕してくれー!!」

「そーよねー!!時代は肩車よねー!!」

「やれやれ…」

澄姫と小平太のストッパーである長次の戦線離脱により収集がつかなくなってきてしまい、混沌と化した宴会場に、朱雀の咳き込む音と文次郎の呟き、そして仙蔵の笑い声が響いた。


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