園田村到着

囮チームと合流した伊作と澄姫は、先程までタソガレドキ忍軍組頭雑渡昆奈門と交戦していたこと、乱太郎を先に園田村へ向かわせたことを山田先生に報告し、そのまま共に園田村へと向かうこととなった。

「災難でしたね、澄姫先輩」

そう苦笑しながらも、雷蔵は自身の上着を脱いで彼女に渡してやった。
それにお礼を言いながら、上着を羽織り手持ちの紐を帯代わりに結ぶ。

「ん、馬借みたいだけど助かるわ雷蔵」

年下とはいえ成長期の男子である雷蔵の上着は彼女には少しばかり大きく、まるで学園によく届け物をしに来る加藤村の馬借のような格好になってしまい、澄姫は冗談めいた笑みを零す。

そこにひょこひょことやってきたのは、雷蔵と同じ顔をした鉢屋三郎。
彼はとても嬉しそうな笑みで彼女の下半身を指差した。

「眼福なおみ足ですねェ、澄姫先輩」

「さっ、三郎!!」

慌てて友人を咎める雷蔵を澄姫は片手で制し、彼と同じように笑った。

「ありがと、三郎。お礼に踏んであげましょうか?」

「ケケケケッコウデス」

「ばか」

余計なことを言ったために澄姫の手痛い反撃を喰らい、まるで鶏のように盛大にどもってしまった友人を肘で小突き、雷蔵は溜息と共に小さくそう呟いた。



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若干目立つ格好にはなってしまったものの、何とか無事に園田村まで辿り着いた囮チーム。
あと少しのところでスタミナ切れを起こしてしまった可愛い後輩の背中を押してやりつつ、ゆっくりと歩を進めていた雷蔵の耳に、嬉しそうな三郎の声が届いた。

「乱太郎は無事だぞー!!」

普段飄々としているが、やはり可愛い後輩を1人だけで夜通し走らせたことは心配だったようで、彼の声は普段より少しばかりトーンが高い。

護衛についていたが予期せぬ対峙で最後まで同行できなかった澄姫も心境は同じで、彼女もまたホッと自身の胸を撫で下ろした。
三郎の報告を聞いた1年生たちは各々喜んで、さっきまでの疲れはどこへやら、元気に手潟さんの家に向かって駆け出した。

「よかったぁ」

雷蔵もまた安堵の息と共に笑みを零し、後輩の背をポンポンと押してやる。
すると、乱太郎の一番の友人である彼らは満面の笑みで手を繋いで同級生達の背を追いかけていった。

「曲者の襲撃があったときはどうなることかと思ったけれど、無事でよかったわ」

小さくなっていく井桁模様の背中を微笑ましく見送り、澄姫がそう呟くと、雷蔵もそれに頷いて、今度は彼女の背をそっと押した。

「澄姫先輩も、早く。じきに忍術学園からの援軍が到着すると思います。中在家先輩にその格好を見られたら大変ですよ」

「…それは素敵な笑顔が見れそうね…」

「…えぇ」

2人は頬を引き攣らせながら、脳裏に浮かんでしまった不気味な笑顔をぱっぱっと手で払い、歩く速度を速めたのだった。


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澄姫と雷蔵が手潟さんの家に到着すると、伊作が乱太郎の足の様子を見ており、乱太郎は一晩中走り続けたせいかすやすやと眠っていた。

「怪我は大丈夫そうかしら?」

「うん、捻挫だし手当ても早かったから大丈夫。それより澄姫」

背後からその様子を覗き込み、小さな声で問いかけてきた彼女に対して穏やかに答えた伊作は立ち上がり、ちょいちょいと彼女を部屋の外へと招いた。

「君、着替え持ってるの?」

「うん…それが、変装用の小袖ならあるんだけれど、忍装束は持ってきていないのよ…」

つい、と群青色の装束を摘み、澄姫は眉根を寄せた。

「だと思ったよ。いつまでも不破から上着を借りっぱなしだと、彼が風邪を引いてしまうから、これ…」

そう言って、伊作は風呂敷に包まれた荷物を澄姫に手渡した。
不思議そうに受け取った彼女が風呂敷の結びを解くと、そこには深緑色の忍装束が一式。

「これ、貴方の?」

「あ、大丈夫!!予備の予備だからそんなに着てないし、薬の匂いもしない…と思うよ?」

「あ、ありがたいけど…これを私が着たら貴方どうするの?」

「言ったろ?予備の予備だって。山伏に変装していてよかったよ、あれは荷物か少しばかり多くても違和感がないからね」

いつもの柔らかな笑顔で、伊作は同じような風呂敷包みを取り出して彼女に見せた。
すると、彼女の眉間によっていた皺はなくなり、花が綻ぶような笑顔でありがとう、と笑った。

「僕のでも大きいと思うけど、そこだけは我慢してね」

「借りられるだけ御の字よ、助かったわ伊作、本当にありがとう!!」

そう笑顔で荷物を抱え、澄姫は着替えのために奥の小部屋へと消えていった。
そんな後姿を見送りながら、伊作はこっそりと手を合わせて頭を下げる。

「いえいえ、こちらこそさっきは大変ありがとうございました」

ご利益ご利益、そう呟く彼の形のいい鼻から、つ、と鮮血が垂れた。


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