作戦開始

オーマガトキ城へ向かう道すがら、引率の先生方に心太を買ってもらい休憩していた選抜チーム。
木陰で伊作と共にちゅるりと心太を咀嚼していた澄姫が、そういえば、と口を開いた。

「ねぇ、伊作たちはどんな課題だったの?」

「えっとね、仙蔵と小平太と留三郎はちゃんと6年生の課題だったかな。長次が1年生の課題でアサガオの観察」

「長次…真面目に観察したのね…文次郎は昆虫採集だったわね」

「で、僕はタソガレドキ軍の旗を一本奪ってくることだったよ」

「それって4年生の課題じゃない、出来なかったの?」

「ううん、楽勝だと思った。でも最初に拾ったのがオーマガドキ軍の旗で、たちまちタソガレドキ軍の銃弾が飛んできて、もう一度旗を探そうと戻りかけたら怪我人がいたから手当てして…」

指折り数えながらそう話す伊作の課題内容に、澄姫は呆れながらも保健委員だものね、と呟いた。

そんな彼女と伊作のもとに、心太を食べ終えたしんべヱときり丸がやってきた。

「澄姫先輩も宿題やってこなかったんですかぁ?」

「違うわしんべヱ。あんな簡単な課題、頭に来て破り捨ててやったのよ」

ふん、と鼻息荒く吐き捨てた澄姫の言葉に、しんべヱときり丸は顔を見合わせて頷いた。

「「やっぱり姉弟だ」」

「…滝夜叉丸も破り捨てたのね、やっぱり」

「そうだったんですか」

眉間を押さえた彼女の後ろからそう柔らかな声が聞こえ、振り向くと木陰の反対側から不破雷蔵と鉢屋三郎が顔を覗かせていた。

「雷蔵のほうが珍しいじゃない。真面目な貴方は課題をどうしたの?」

紙一重の天才鉢屋三郎はともかく、成績優秀真面目で有名な5年生の不破雷蔵が課題をやってこないことなど今まで一度もなかったことなので、澄姫は首を傾げながらそう問いかけると、雷蔵は苦笑しながら頭を掻いた。

「もらった宿題が3年用理科ドリルだったもので…」

「あら、雷蔵も破り捨てたの?」

「いえ、裏があるのか…それとも僕の実力はその程度ということなのだろうか…と思い悩んでいるうちに夏休みが終わってしまって」

彼のその言葉に、その場にいた三郎以外の全員がすっ転んだ。




「さぁ、そろそろ行くぞ」

山田先生のその言葉に起き上がった全員がこれからの作戦のためにそれぞれ準備を始める。
選抜チームの作戦は各々物売りに化けタソガレドキ軍の陣地に入り込み、そこからオーマガトキ城に近付く、というものである。

「いいか。きり丸としんべヱは私と共に物売りに、滝夜叉丸と左門は厚着先生と共に堀へ、雷蔵と三郎は日向先生と、伊作は澄姫と行動しなさい」

「「「はい!!」」」

「各自無茶をせず、上級生は独自の判断で動くこと」

山田先生が小さな声でそう言うと、雷蔵と三郎は日向先生と共に先駆け山へと入り、伊作と澄姫は頷いてその場から姿を消した。

「では、我々も…いくわよぉ」

「「うげぇ…」」

売り物の団子を担いだ途端、一瞬にして不気味な女性へと変わった実技担当中年忍者のおぞましい姿に、しんべヱときり丸が思わず唸った。



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森の中の木々を飛び移りながら、山伏姿に着替えた伊作と忍び装束のままの澄姫はお互いこれからどう動くかを話し合っていた。

「僕は周囲の状況を伺ってからタソガレドキ陣地に潜入するつもりだけど、澄姫はどうする?」

「私は物売りに化けると目立ってすぐ顔を覚えられてしまうから、このまま森から戦場に抜けて印を取ってくるわ」

「わかった、戦場にはあのタソガレドキ軍忍組頭がいるかもしれないから、十分に気を付けてね」

親切心からそう忠告した伊作の言葉に、澄姫は一瞬で固まり木から足を滑らせた。

「危ないっ!!」

重力に従い地上へと落下しかけた彼女の腕を、飛び移ってきた伊作がしっかりと掴む。

「大丈夫!?」

「…そうだった…あの忍組頭、いるんだった…」

顔面蒼白でぷるぷると小刻みに震える澄姫の珍しい姿に、伊作が驚いて彼女を抱きかかえ地面へと降り立つ。

「ど、どうしたの…?あの人曲者だけど、そんなに怖い人じゃないよ?」

そんな彼の言葉に、澄姫はいやいやと首を振る。

「伊作は男だからそんなことが言えるのよ!!戦場みたいな血が滾るところで遭ってみなさい!!絶対犯されるわ!!」

「犯っ…な、何でそんなことになるの!!?」

「だって夏休みもらうためにタソガレドキ城に行ったときも、私あちこち触られてひん剥かれて…!!」

「ひん剥…!!!」

どんな想像をしたのか、たり…と鼻から血を垂らして、伊作が鸚鵡返しのように呟いた。
その間も澄姫は首を振りながら涙を浮かべて震えている。
あまりにも必死な彼女の様子に、伊作は放っておけなくなり、先程までの考えを改め、彼女と共に森を大きく迂回しオーマガトキ陣地へ向かうことにした。

「うっうっ…穢されるぅ…」

「もう泣かないでよ澄姫、僕からも雑渡さんに一言言っておくから、ね?」

「ぐすっ……うん…」

めそめそと泣き言を垂れる澄姫の手を引いて、森の中を進んでいく伊作の額にはこれまた珍しいことに青筋が浮かんでいた。

「…雑渡さんがそんな破廉恥な人だったなんて…うらやましい」

「え?」

「や、なんでもない!!」


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