選抜チーム結成

ギラギラとした日差しが照りつける真夏のある日。
忍術学園くノ一教室最上級生である6年生の平澄姫は、禍々しいオーラを放ちながら一枚の紙を握り締めていた。

「…ふふ…これはどういう意味なのかしら…」

桜貝のような美しい爪が掌に食い込むことも厭わず、彼女は紙を握り潰す。

「成績優秀文武両道忍術学園一の美貌を誇るこの私が…この私が…」

ふつふつと低い声で呟き、澄姫はいつもは涼しげな瞳をカッと見開き、握り潰していた紙を勢いよくビリビリと引き裂いた。

「こんな簡単な宿題バカバカしくてやってられないわ!!!」

そう叫び頭上高くに破いた紙を放り投げる。
鼻息荒くその場を後にした彼女の背後に散らばった紙には、彼女へと課された夏休みの宿題とは思えない『絵日記』の文字が無残に引き裂かれていた。



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今回の夏休み。直前に学園長のいつもの迷惑な思いつきで各学年と課題に取り組み、見事夏休みを得た澄姫は弟である滝夜叉丸と、恋仲である中在家長次を連れて実家に帰った。
長次と澄姫の両親の対面が滞りなく済み、無事交際を許された。
長次は挨拶が終わると自身も実家へと顔を出すと言って故郷へと向かい、澄姫は澄姫で長く実家には留まらず、七日ほどゆっくりしたら学園へと戻り鍛錬に励んでいた。

そして鍛錬の合間を縫って夏休みの宿題を、と思い夏休み前に先生から渡された一枚の紙を見て、冒頭に戻る。

それ以降、課題のことには一切触れず、続々と夏休み前に登校してきた上級生と共に鍛錬をし、あっという間に夏休みは終わった。


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新学期当日、続々と登校してくる下級生たちを教室の窓から眺めていた澄姫の肩にぽん、と軽い衝撃。
振り返るとそこには友人である立花仙蔵がたいそう面白い顔で立っていた。

「どうしたの仙蔵、妙な顔して」

「いや、聞け澄姫。夏休みの宿題でとても面白いことが起きてな」

そう言いつつ喉の奥でくつくつといやらしく笑う仙蔵に、彼女は自身の夏休みの宿題のことが頭をよぎり、顔を顰めた。
そんな彼女に構うことなく、仙蔵は口元を手で覆い、教室の隅で不機嫌そうに顔を歪める潮江文次郎を指差した。
そんな文次郎の机の上にはちょこんと虫かごが置いてあり、その中には黒いものがうごうごと蠢いていた。

「な…なによあれ…」

「ぶっくく…文次郎の夏休みの宿題…ぷぷ…」

「はぁ!!?だってアレどう見ても…!!」

「それがな…ぷぷ…事務員の小松田さんのミスで、夏休みの宿題がクラスも学年もバラバラに配られたらしくて、福袋状態だったらしいぞ…だから文次郎が…一年生の宿題である昆虫採集を…真面目に…ぶはっ」

「…成程、アレはそういうことだったのね…」

とうとう笑いを堪え切れなくなった仙蔵が大爆笑を始め文次郎に怒鳴られる中、澄姫はひくひくと口角を引き攣らせ、鈍い痛みを訴え始めた額を押さえた。

しばらく仙蔵と文次郎の大騒ぎを眺めていた澄姫だが、教室の扉が開き6年は組の善法寺伊作がひょっこりと顔を覗かせた。

「あ、いたいた澄姫、先生が呼んでるから一緒に行こう…って何この騒ぎ」

「あら伊作おはよう。これは仙蔵が文次郎のギンギン昆虫採集を褒めているのよ」

「褒めてるってどう見てもバカにして…え、っていうかギンギン昆虫採集?」

頭の上にたくさんの疑問符を浮かべてしまった伊作に駆け寄り、澄姫は彼の手を引いて教室を後にし、呼んでいるという先生のところに向かった。

先生の指示通り第二運動場へ向かうと、そこには既に何人かの忍たまがおり、その中には彼女の弟、滝夜叉丸の顔もあった。

「あら、滝」

「姉上!!姉上もオーマガトキ城へ?」

「えぇ、急に先生に呼ばれて…内容は聞いていないのだけれど…」

「そうですか…いえ、なんでも1年は組の山村喜三太が6年生用の夏休みの宿題を引き当ててしまいオーマガトキ城へ行ったまま戻らないとかで、優秀な生徒を集めて選抜チームを作り救出に向かうとか何とか…」

「まぁ、山村喜三太って留三郎のところの子じゃない。それは大変ね…それにしても選抜チーム…ふぅん…確かに優秀ね、バランスもいいわ」

「はい、姉上と私がいれば1年坊主の救出など赤子の手を捻るも同然ですが、念には念を、ということでしょうか。救護班である善法寺先輩に、阿吽の呼吸5年ろ組の名コンビ不破雷蔵先輩と鉢屋三郎先輩…何故か決断力のある方向音痴の神崎左門と1年は組から摂津のきり丸と福富しんべヱもおりますが…」

優秀、というには些か首を傾げる下級生の3名を見つめていると、どこからか煙玉が投げ込まれ、その中から学園長が姿を現した。
学園長はぶっふぉ、と咽たのか咳払いなのか良くわからない咳をひとつすると、大きな声を張り上げ第二運動場に集合している選抜チームにこう言った。

「ではこれより諸君選抜チームでオーマガトキ城へ向かう!!目的は間違った福袋、…いや、もとい間違った宿題を引き当ててオーマガトキ城へ向かった生徒の救出である!!」

おー、と気合を入れて腕を突き上げた選抜チームの後ろで、こそこそと話し声が聞こえて、澄姫はこっそりと耳を傾けた。

「…きり丸たち宿題やってこなかったばかりに…」

「あの優秀な澄姫先輩や不破先輩や鉢屋先輩もかな…」

「宿題忘れたなんて考えられないよね…」

「いや、宿題をやってない連中ばかり集めて選抜チームを作ったんだ」

可愛い三つの声の疑問に溜息交じりで答えた土井先生の声を聞き取り、澄姫はその内容にがっくりと頭垂れた。
おそらく滝夜叉丸も下の学年の簡単な宿題を引き当てて、破り捨てでもしたのだろう。

「…何が優秀な生徒を集めた選抜チームよ、タダの罰ゲームじゃない…」

「タダ!?」

「そっちのタダじゃないわよ、きり丸…」

姉弟揃って似たような行動をとってしまった上、仲良く補習とは嘆かわしい。そう思いながらも、澄姫は選抜チームもとい罰ゲームチームに混じり、後輩を救出すべく学園を出た。


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