ナンコレ・フルスロットル
キノコ裏々川に特設された闘技場での騒ぎが一息ついたところで、かなり遅れた斉藤タカ丸と池田三郎次の様子を見に行っていた山田先生と厚着先生が第四ポイントに合流した。
2人の先生からもたらされた情報で、タソガレドキ軍がうろうろしていた目的が戦ではなく川向こうのカワタレドキ城と同盟を結ぶためだと判明したため、ピリピリとしていた空気は自然と和らぐ。
タソガレドキ城主黄昏甚兵衛から南蛮衣装コーディネートを頼まれ、彼と共に現れた斉藤タカ丸と池田三郎次の無事な姿を見た2年生と4年生は安堵の息を吐き、それぞれ友人に駆け寄り労いの声をかけた。
色とりどりの装束がわいわいと仲良さげにしている姿を一歩引いて眺めていた澄姫は、最後尾を付いて来ていたユキちゃん含む医療班に気付き、桃色の団体に手を振る。その姿に一番に気が付いたみかちゃんが嬉しそうにぶんぶんと手を振りながら、大きな声で彼女を呼んだ。
「あっ、澄姫先輩〜!!」
みかちゃんの声で澄姫とトモミちゃんに気が付いたくのたまたちは、忍たまそっちのけできゃあきゃあと駆け出す。あっという間に桃色に取り囲まれた澄姫は、口々に疲れただの飽きただの参加できなくてつまらないだの文句を吐き出す可愛い後輩を見回してゆるりと笑う。
「本当ね、私ももう面倒になってきちゃったわ」
「ですよねー!!もうホント学園長先生の思いつきめんどくさい!!むしろ学園長先生がめんどくさい!!」
「やっだぁ卯子ちゃんったら辛辣〜、でも全面同意だわぁ」
「あやかちゃんも言うわよねー。あーあ、お風呂入りたぁい!!澄姫先輩もそう思いません?」
猪々子ちゃんがうんと伸びをしながら同意を求めてきたので、澄姫は彼女の緑がかった髪についていた葉っぱを取ってやりながらそうねと頷いた。
「1日中動き回ってたら汗だくだものね。この際水浴びでもいいからしちゃおうかしら」
取った葉っぱを捨てながら冗談交じりに言えば、なおみちゃんとしおりちゃんが頬に手を当てて、キャー先輩ったら大胆ー!!とはしゃぎ、くのたま軍団は大盛り上がり。
だから、彼女たちは気付かなかった。きり丸たちが掘ってきたたけのこを回収しに、学園長先生がやってきていたことに。
「くのいちとは…いや、おなごはいつの時代も恐ろしいもんじゃなぁ…」
ガールズトークの勢いに押されて小さく呟くしかできない学園長先生の背中を、愛犬のヘムヘムがまるで慰めるようにぽむっと可愛く擦っていた。
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早く学園に戻ってたけのこ料理パーティーを開きたくなった学園長先生の独断と偏見により、サバイバルオリエンテーリングは急遽ただのゴール地点を目指すだけの競争にルール変更され、丸一日の頑張りをなかったことにされた忍たまたちは揃ってすっこける。
しかし川の向こうがゴールなので、こうなったらせめて優勝賞品『半年分学費免除権利』だけでも貰おうと奮い立ち、怪しまれず川を越えるために南蛮衣装ファッションショー、略してナンコレに参加することとなった。
ファッションに詳しい元髪結いのタカ丸指導の元、MCを任されたトモミちゃんが台本を受け取り進行を頭に叩き込んでいく。
「ふんふん、モデルはタソガレドキ軍の鉄砲隊隊長と鉄砲足軽さんたち、タソガレドキ忍軍諸泉尊奈門さん、それに忍術学園の生徒かぁ…なぁんかぱっとしない面子ねぇ…あ、澄姫先輩も出られたらいかがですか?」
「え?私も?」
「トモミちゃんナイスアイディア!!澄姫先輩お綺麗だしパーフェクトバディだから絶対トップ狙えますよ!!」
台本に書かれているモデルの名前に不満を漏らしたトモミちゃんがぽんと手を叩いて澄姫に言えば、追い討ちをかけるようにユキちゃんが瞳を輝かせてその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。しかし澄姫は艶やかな唇をへの字に曲げて、きっぱり嫌よと拒否。
「えー?どうしてですかぁ?」
「だってショーに参加したら…」
「したら?」
「長次の凛々しい姿をしっかり見れないじゃない!!」
「「あぁ…」」
そして続けざまに告げられた何とも欲に塗れた理由に、ユキちゃんとトモミちゃんは声を揃えて、正しく盲目ですねと苦笑いを漏らした。
こうして幕を開けたタソガレドキ城とカワタレドキ城の同盟前祝南蛮衣装ファッションショー。最初はぐずぐずと文句を言っていたモデルたちも、いざ衣装を着て舞台に立てばその姿のノリノリなこと。
タソガレドキ軍鉄砲隊の出番が終わり、続いて忍たまたちの出番。わあわあと男性のむさい声しか聞こえていなかった会場に、澄姫の黄色い声援が飛んだ。
「きゃあー!!長次ー!!素敵ぃぃぃっ!!」
「ちょっと、澄姫先輩ぃ…ていうか中在家先輩ときり丸、忍足袋はいてるじゃないのよぉ…」
「斬新な衣装合わせねっ!!そんなところも素敵よ長次ぃぃぃぃっ!!」
「はぁ…澄姫先輩って普段は美人で優秀なのに中在家先輩が絡んだ途端ポンコツになりますよねぇ…」
大勢の忍たまの中に紛れた長次を一瞬で見つけ出した澄姫は、げんなりしているトモミちゃんの隣で小さく毒を吐いたユキちゃんの柔らかなほっぺたをむにゅりと引っ張りながら美しく微笑んだ。
「ポンコツだなんて素敵な褒め言葉をどうもありがとうユキちゃん」
「いひゃいいひゃい、ふひゃ〜」
そしてそのままの体勢で、MCが一段落したトモミちゃんに問い掛ける。
「トモミちゃん、残っているチームはあと何組かしら?」
「あ、えっと…さっきの戦いで5年生チームは全滅しましたからぁ…」
「わかったわ、ありがとう。ここから先は皆全力で行くでしょうから、私が先頭を追いかけるわ。2人は最後尾からいらっしゃいな」
そう言った澄姫はユキちゃんの頬から手を離し、ぽんぽんと軽く頭を撫でながら2人に最後の一仕事頑張りましょうねと笑って、素早く退場口から飛び出す。
一瞬にして消えた深赤を見送った2人の少女は、ふと顔を見合わせて嬉しそうに笑い合う。
「…だってさ、ユキちゃん」
「…ん。あと一息がんばろっか、トモミちゃん」
そして頷きあった2人は次の瞬間凛々しい表情になり、勝負の行方を見届けるためにその場から走り去った。
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