指令かタケノコか

各チームが順次スタートしたので、くのたまたちは各々役割のため分散していく。
実況のトモミはコースに沿ってチームを追いかけていき、現場からの中継を担うユキは先頭チームを追いかけていく。そして保健委員会に変わって救護を担当するくのたまたちに手を振って、追跡中継を担う澄姫は目的の深緑を追いかけるべく大きく跳躍して木の枝をリズムよく飛んでいった。
スタート序盤、ふくよかな井桁模様の後姿と、それによく似た群青を見つけた彼女は降り立った木の枝から様子を伺う。なにやらぷりぷりと怒っているのはやっぱり1年は組の福富しんべヱで、彼と組んでいる悪戯好きの鉢屋三郎がなにやらやらかしたのだろうとひっそり笑いながら見守った。
と、そこに現れたのは5年生の久々知兵助。
一言二言なにやら言葉を交し合った群青2人は地図を開き、真剣な面持ちでコース上を指差している。

「オリエンテーリングのコースが学園長先生が仰っていた竹や木材を集めてる怪しいやつらのすぐ近くを通ってるってことだな?」

「すぐ近くどころか、怪しい連中がウロウロしているど真ん中を通ってるんだよ!!」

「(竹や木材を集める怪しい連中?)」

結構な剣幕で怒鳴った兵助に驚いた澄姫は静かに地面に下りると、彼らの話に聞き耳を立て

「これはきっと我々忍たまにその怪しい連中を探れ、という学園長先生の無言の指令だ…と思う」

「違う、と思いますね」

…ようとしたが、次に現れた人物を見て慌てて口元を覆う。

「(長次…!!)」

やってきたきり丸と長次を見て、澄姫の瞳にハートが浮かぶ。兵助と三郎も驚いたようだが、きり丸はお構いなしに言葉を続けた。

「コースがやたら竹やぶのすぐそばを通ってるってことは、何とかしてタケノコを手に入れてこい、という学園長先生のいつものワガママだと思いまーす」

「タケノコを?まさか…」

「(そうよ、いくらなんでも…)」

「待て三郎、中在家先輩が何か喋っておられる」

「……まさかと思うが…あの学園長先生なら…あり得る…」

「(長次がそう言うならあり得るわ!!)」

なにやら不穏な話だったのに、一気に力が抜けた兵助と三郎。
話が難しくてよくわからないのか、お弁当を食べ始めたしんべヱと伊助。
その様子を草葉の陰に身を隠して眺めていた澄姫は恋仲の言葉に妄信的に頷いてからマイクを握り、小さく口を開いた。

「…さて、こちらスタート地点序盤の平澄姫よ。なにやら不穏な話も出ていたけれど、まあこの優秀な私がいるので問題ないと思うわ。三郎しんべヱ、兵助伊助、そして長次ときり丸チームは足取りも緩やかに進んでいくようだから、ちょっと他のチームも見てみようかしら」

うふふ、と艶っぽく笑った彼女がカメラ目線でウインクを投げる。長次を一目見て余裕が出てきたのか、他のチームを見回るためにまた木の枝に跳躍した澄姫。
しんべヱ、伊助、きり丸はもとより三郎と兵助ですら気付いていなかった彼女の気配…けれどその場にいた長次だけは、澄姫が飛び去ってからふと足を止め、目尻を下げて彼女が隠れていた草葉の陰に視線を向ける。

「……もう、泣いては…いないようだ、な…」

「へ?中在家先輩、何か言いましたか?」

「…なんでもない……きり丸、私たちも、早めの昼食に、するか…」

「…あーい!!」

タイムレースなのに随分とゆっくりだな…と思って首を傾げたきり丸だが、彼より先にぐうう、と返事をした腹をさすって元気よく手を上げた。


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